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食事のたびに歯は溶けている?食後すぐのブラッシングは是か非か

  • 書名 『「歯みがき」するから歯は抜ける』
  • 監修・編集・著者名大岡洋
  • 出版社名現代書林

むし歯や歯周病の怖さは誰もが知るところ。

だからこそ、歯を失わないために「歯みがき」に余念がない人は多いはずです。

でも、ちょっと待ってください。あなたのその歯みがきはまちがっているかも。

『「歯みがき」するから歯は抜ける』(現代書林刊)の著者で歯科医師の大岡洋さんは「適切なケアをすれば歯肉は老化しない」として、本書で正しい歯肉ケアの方法を紹介しています。

今回はその大岡さんにインタビュー。歯周病やむし歯、そしてこれらの予防のための、一般的な歯みがきとは一線を画す正しい「ブラッシング」についてお話を伺いました。注目の後編です。

■食事のたびに歯は溶けている?食後すぐの歯ブラシは是か非か

――歯ブラシに関しては「食後すぐにやるべきだ」「いや、すぐやるのは良くない」と、相反する両方の説を聞きます。どちらが正しいのでしょうか?

大岡:「食後すぐ歯ブラシをしなさい」とする説の根拠になっているのは、口の中のpH(酸とアルカリのバランス)です。

通常口の中はpHが「7」くらいで、だいたい中性なのですが、食後すぐはこの数値が下がって酸性になり、時間が経つと唾液の作用でまた中性に戻ります。食事をするごとにこれが繰り返されるわけですが、食べた直後数分間は酸性になるんです。pHが「5.5」を下回ると、酸によって歯が溶かされてしまう。だから、食べたらすぐにブラシをして、酸性になっている時間を減らした方がいいですよ、というのが「食後すぐ歯ブラシをしなさい」とする説の理屈です。

ただ、この説には問題があって、食事は一瞬では済ませられませんよね。つまり、食べている間はずっと口の中は酸性になってしまう。だから、食後すぐに歯ブラシするのは、理論上酸性になっている時間を減らすことにはなるのですが、実際はある一定の時間は口の中が酸性の状態になってしまうんです。

――なるほど。

大岡:一方で、唾液には歯をコーティングする成分が含まれていて、そのコーティングには20~30分かかる。食後すぐに歯ブラシするのはそのコーティングを剥がしてしまうことになるから良くないという説も近年出てきています。

この二つは相反するものですが、どちらが正しくてどちらが間違っているという話ではないと個人的には思っています。どちらも起こりうることなんです。

だから、ブラッシングのタイミングについて正解はないと思いますが、物を食べれば口の中に汚れがつくというのは事実ですし、これを放置すれば唾液が減る睡眠中に細菌が繁殖しやすくなってしまうというのも事実ですから、タイミングはどうあれ少なくとも夜寝る前には口の中をきれいにしましょうね、というのが今回の本で伝えたかったことです。

――印象的だったのが、手のクセによってブラッシング時に「得意な場所」と「苦手な場所」ができてしまうという点です。

大岡:食後の「歯みがき」は誰もが物心ついたころからやっていることです。それをどうやって覚えるかというと、親や兄弟、テレビCMなどがやっているのを見て「ああ、こうやるんだ」ということで、何となく身につけていく。

見よう見まねで会得した習慣を手の筋肉が記憶しますから、得意な場所はきれいに歯ブラシを当てられるけど、苦手な場所はいつもやり残したまま何年も経過するということになりやすいんです。これも歯周病やむし歯が悪化する原因の一つです。

――この他にブラッシングについての注意点はありますか?

大岡:歯磨き粉を過信しすぎないことですね。おそらく90%以上の日本人は歯ブラシに歯磨き粉を使っていると思うんですけど、歯磨き粉に何らかの予防効果があるのなら、みんなこんなに歯のことで苦労していないですよ。

歯磨き粉でありがちなのが、口の中がさっぱりして「キレイにしたつもり」になってしまうことです。きちんとしたブラッシングができていないのに、ミントの効果でそれがわからなくなってしまう。また、本来は鏡でブラシが当たっている場所を確認しながらやるべきなのに、泡のせいで見えにくくなってしまう点も注意が必要です。

――歯磨き粉については、歯が白くなるという見た目の効果のために使っている人が多いような気がします。

大岡:広告で謳われているほどの効果があるかは疑問ですが、歯の表面をきれいにするという目的で歯磨き粉を使うのであれば、それはそれでいいと思います。

ただ、それはむし歯対策や歯周病対策とは別物と考えるべきです。

――大岡さんの推奨するブラッシング法は歯磨き粉を使わず、汚れの溜まりやすい歯と歯肉の際の部分にブラシをあてて、歯肉をマッサージするようにブラッシングするというものです。効果的に思える一方ですごく時間がかかりそうな方法ですが、だいたい何分くらいかける目安でやっていけばいいのでしょうか。

大岡:私は「何分くらいで」ということは患者さんには言っていません。作業の早い遅いには個人差がありますし、残っている歯の数も人によって違います。ただ、歯が全部残っている人に限っていえば、少なくとも20分以上はかかるのではないでしょうか。

この本で紹介しているブラッシング方法の唯一の欠点は時間がかかることです。歯や歯肉を傷つけずマッサージするように弱い力で回数をかけて行なうという方法ですから、これはもう仕方がない。

肩の筋肉をマッサージする場合を考えてみてください。仕事量が同じなら、弱い力で長い時間かけた方が気持ちよく感じると思います。歯肉も肩の筋肉と全く同じことを望んでいて、弱い力で回数、つまり時間をかけてほしいのです。
過剰なブラッシング圧は歯と歯肉を傷つけるだけでなく、マッサージ効果も見込めません。これは電動歯ブラシも同様でして、その性能に過信しすぎないことが重要です。
ただ、その代わりに「1日1回」でいいということもお伝えしたいです。夜寝る前のブラッシングだけは時間をかける。私は毎食後中途半端に「歯みがき」するよりも、細菌が繁殖する睡眠中に備えて、寝る前にしっかり「ブラッシング」をして汚れを取ってあげるというスタイルの方が、むし歯や歯周病の予防には効果的だと考えています。

――最後になりますが、歯周病やむし歯など口内のトラブルに悩む方々にメッセージをお願いいたします。

大岡:口の中の病気(むし歯、歯周病)になりやすい場所と、汚れがつきやすい場所は一致しています。ですからブラッシングではそこをターゲットにすべきで、この本ではそのための方法を紹介しています。

それと、歯肉は清潔に保っていれば老化によって衰えるどころか、年齢に関係なく健康な状態にできるのです。ですから、「歳を取ったら歯周病になるのは仕方がない」と諦めずに対策をしていただきたいというのが、一番伝えたいことですね。歯周病もむし歯同様、予防可能な病気なのだと。

(新刊JP編集部)

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