商売をしていて、想定通りの売上を上げられないときに、あなたならどんな手を講じるだろうか。多くの人はこう考えるだろう。「値段をもっと下げよう」
確かに消費者にとって安売りは魅力的なので一時的に客は集まるだろう。しかし、安易な安売りに走ってしまうと、応援してくれていた本当のお客さんも手放すことになるかもしれない。
そう警鐘を鳴らすのが"なにわのマーケティングコーチ"であり、『もう安売りしかないと思う前に読む本』(セルバ出版刊)を著した高橋健三さんだ。
新刊JPによる高橋さんへのインタビュー、前編では「安売りのデメリット」について聞いたが、続く後編では「安易なSNS運用」について警鐘を鳴らしてもらった。
「もう安売りしかない」と考える前に、打つ手はある。
(新刊JP編集部)
■「『炎上』を『注目』という言葉に置き換えればいいんです」
――SNSが広まった際に、猫も杓子も「SNSでファン作り」という風潮になった印象がありまして、実際にはじめるけれど手一杯になり、途中で更新しなくなるというケースも多いと思います。新しいものが出てくる度に手を出して失敗という悪循環にならないために、どのようにすればいいのでしょうか。
高橋:中小企業の多くはSNSにまで手が回っていなくて、とりあえず他にプロモーションの方法もないから「藁にもすがる」感じで始めようとしている方もいると思います。でもそういうすがりかたはダメです。
SNSはあくまでファン作りの手法の一つです。「自分らしさ」「自社らしさ」を打ち出す媒体としてトライアルするのは良いと思いますが、大企業のやり方を真似しても上手くいかないでしょうね。
――つまり、独自の情報なり色を作ることができれば、効果はあると。
高橋:そうです。インスタグラムで写真をアップしてもなかなかフォロワーが集まらず、ウソの友達を集めてみても意味ないじゃないですか。見せることが目的ではなく、パーソナリティや人間性、価値観を伝えることがSNSの醍醐味です。格好良く見せるのではなく、等身大の素直な姿を通して興味を持ってもらうことがファンを作る一歩だと思いますね。
――その場合、ファンとなりそうなターゲットをしぼるべきですか?
高橋:むしろガチガチにしぼるべきでしょう。私は研修の際に「ペルソナの設定をしましょう」という話をするんですが、「30代女性」というようなおおまかなものではなく、「34歳、御堂筋線で通勤している銀行勤務のOL。犬を一匹飼っており、好きなブランドはコーチ。赤ワインより白ワイン派」というように設定していきます。
また、単に商品を買ってくれる人というよりは、自分たちが提供しているプロダクトやサービスを最も高く評価してくれる人をペルソナとすべきでしょうね。
――なるほど。
高橋:ターゲットがしぼりきれていない企業がよくつけがちなキャッチフレーズが「こだわりの逸品をお届けします」とかありますよね。ライバルも含めてみんなが「こだわり」という言葉を使うので、結果的に没個性になってしまいます。
――ブログを執筆する経営者もいますが、ブログはどう思いますか?
高橋:良いと思います。注目度の高い会社って社長自らメッセージを発信しますよね。ユニクロの柳井さん、ソフトバンクの孫さん、星野リゾートの星野さん。大きな規模の会社でも社長が前にどんどん出てくるわけですから、小さな会社の社長もそれとは違う自分自身のキャラを打ち出せばよいと思います。
――炎上のリスクもありませんか?
高橋:それはいい格好をしようとするからです。また、炎上という言葉は「注目」と言い換えることもできます。注目されてラッキーと思えばいいんですよ。炎上も1年、2年続くものではないですしね。
もちろん人を中傷したりするのはダメですが、社会的に悪影響を与えることでなければ、一時的に注目度が上がったとポジティブに評価しておきましょう。
――これから中小企業が知っておくべき安売り以外の方法はどのようなものがありますか?
高橋:4Pでいうところのプライスは各業界ともに企業努力で際限なく低価格になっていますし、プロモーションはSNSの活用など各社ともに類似の手法しかなくなっています。
伸びしろがあるのは販路(プレイス)で、この本で「カイシャナカ」という事例を紹介していますが、例えば「オフィスグリコ」のようにオフィスの中に専用ボックスを設置してそこでお菓子を売るとか、ローソンが「プチローソン」という名前で無人コンビニを導入したり、会社の中は今後注目すべき販路のひとつです。
また星野リゾートがスキーゲレンデの中に食事や買い物を楽しめる施設を作るというニュースなど、想定外の場所に販路を求めるケースは面白いですよね。
――クリエイティビティがありますよね。新しい視点を持ったマーケティングの重要性が高まっていることを感じます。
高橋:研修で経営者の変化についてお話していますが、今、マーケティング専門家が社長になっているケースが多いんです。例えば、日本コカ・コーラでマーケティングを担当していた魚谷雅彦さんが資生堂の社長になったり、ローソンの社長だった新浪剛史さんがサントリーの社長になったりしています。
大企業でもマーケティングの重要性が分かっている人がトップに立っている。それは、これまでの製造部、営業部、総務部という、作る人、売る人、管理する人という組織体制だけでは会社がまわらなくなっているということでもあると思います。中小企業の場合、社長がマーケティング部長の役割を兼ねることが多いので、本人がいろんなところに顔を出しながら、マーケティング発想力を高めることが大事ですね。
――本書をどのような方に読んでほしいとお考えですか?
高橋:この本には日頃のセミナーで話している、具体的な「打ち手」をたくさん紹介しています。そういう意味では、お客さんを増やすために日々知恵をしぼっている人に読んでもらえると、新たなヒントになること間違いありません。
また、本書の最後に「顧客創造力を鍛える『発想虎の巻』」という120個のアイデアリストを付けました。セミナーではこれをヒント集として、自社の4P戦略を考えてもらっていて、「レトロデザインに取り組んでみよう」とか「期間限定ショップを出してみよう」など新しい発想がどんどん生み出されています。ぜひ活用してほしいですね。
(了)
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