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書名
成人発達理論による能力の成長
- サブタイトルダイナミックスキル理論の実践的活用法
- 監修・編集・著者名加藤 洋平 著
- 出版社名日本能率協会マネジメントセンター
- 出版年月日2017年6月15日
- 定価2,700 円(税込)
- 判型・ページ数A5判上製・312ページ
- ISBN9784820759829
突然だが、あなたは自分の能力をどの程度だと認識しているだろうか?
ここでいう「能力」とは、どんな仕事、どんな研究、どんなスポーツ競技をするにも不可欠となる「深く思考し、それを言語化する力」である。生まれ持ったものだけでなく、それまでの学習や経験によって身についた力を指す、ある種の「個性」である。
「同期の中ではナンバーワン」
「日本人の平均は超えているだろう」
「人より劣っている気がする」
など、人によって、自分の能力レベルへの自己評価は異なるはずだが、それを客観的に知る方法もある。
『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』(加藤洋平著、日本能率協会マネジメントセンター刊)では、発達心理学者のカート・フィッシャーが考案した、能力の成長段階理論に沿って、自分の能力レベルを知る方法を紹介している。
ここで、練習問題を出題しよう。
問)「人」という存在を自分なりの言葉で説明すると、どのような定義をすることができるでしょうか。
この問いは、真剣に取り組めば取り組むほど、深い思考と認識能力、言語能力を要するものだということがわかるはず。自分なりの答えが出たら、以下を読んでみてほしい。
■あなたの能力はどのレベルか
フィッシャーは、人間の能力を以下の5つの階層と、それを細分化した13のレベルに体系化した。
・反射階層(レベル0~レベル2)...幼児が積み木を見て口に入れてしまうような、無意識な反応を生み出す。
・感覚運動階層(レベル3~レベル5)...言葉を用いることなく、身体的な動作を生み出す。
・表象階層(レベル6~レベル8)...個別具体的なものが目の前になくても、言葉によってそれをイメージできる。
・抽象階層(レベル9~レベル11)...目に見えない抽象的な事柄を言葉によって扱うことができる。
・原理階層(レベル12)...抽象的な様々な概念をさらに高度な概念や理論にまとめ上げて発揮できる。
ただし、問題の性質上、言葉は必須なので、ここでは言葉を伴わない「反射階層」と「感覚運動階層」は省き、「表象階層」、「抽象階層」、「原理階層」を対象に答えを紹介していこう。
■表層階層(レベル6~レベル8)の回答
表層階層のうち、レベル6の回答は「お母さんは人です。」というもの。この能力レベルは、事物の具体的な1つの特徴を言葉によって捉えることができるが、複数の特徴を捉えることはできない。
表層階層レベルはさらに細分化され、もう少し高度なレベル7になると、事物の具体的な特徴を1つ取り上げ、その特徴についてさらに1つの具体的な特性を説明することができるようになる。例としては「父は人です。そして、父は背が高いです」となる。
さらに「人は多くのことをします。例えば、友人と話すことやご飯を食べます。それらは、生きるために必要なことです。」のように、事物の具体的な特徴を複数捉え、それらをまとめることができると、レベル8だ。
■抽象階層(レベル9~レベル11)の回答
抽象階層になると、物事を具体的な特徴ではなく、抽象的に考えることができるようになる。
レベル9では、事物の抽象的な1つの側面を捉え、「人は人間と言い換えることができます。赤ん坊を除き、人間は考えることができます。」といった回答が可能になる。
「人は理性を用いて物事を判断することができます。そうした判断は、各人異なる考え方に左右されます。」と、事物の抽象的な特徴を1つ取り上げ、その特徴についてさらに1つの抽象的な特徴を説明することができていれば、レベル10ということになる。この辺りになると、物事の認識度が深まってくる。
レベル11では、事物の抽象的な特徴を複数捉えながら、それぞれを関連づけることができる。「人は非常に複雑な存在です。各人様々な価値体系を持っており、異なる知識と経験を持っています。固有の価値体系は、新たに独自の知識や経験を生み出します。そして、固有の知識と経験は、新たな価値体系を構築していくことにつながります。つまり、価値体系と知識と経験は相互作用をし、それが人間を複雑な存在にしているのです。」のように、回答を抽象的な性質同士の関連性にまで落とし込めた人は、レベル11ということになる。
■原理階層(レベル12)の回答
原理階層は、フィッシャーが体系化した、人間の能力レベルの最高位に位置する。
このレベルでは、レベル11で作った事物の複数の抽象的特徴のまとまりをさらに複数作り、それらを関連づけ、一段高次元の概念の中で、それらをまとめることができる。
「人というのは、『動的な要素非還元的存在』です。つまり、各人固有の意味構築システムと社会の文化的・制度的なシステムが相互作用することによって、全体としての1人の存在を形作っている、ということです。具体的には、人はそれぞれ、各人固有の認識世界を持っており、現象に対する意味づけの仕方が異なります。こうした意味づけの方法は、置かれている文化や制度による影響を強く受けます。また、私たちの意味づけの方法が変われば、社会の文化や制度に対して影響を与えることになります。このように、私たち人間は、絶えず自己と社会との相互作用によって変化する生き物であり、特定の要素に還元することができないため、『動的な要素非還元的存在』だといえるでしょう。」
このレベルになると、思考や認識の深さとともに、言語能力の高さも際立ってくる。しかし、フィッシャーによると、ここまで深く物事を認識し、深く考え、言語化し、発揮できる人はほとんどいないという。
◇
いうまでもなく、ここで示した回答は一つの例。完全に合致したかどうかが問題ではなく、問いをどこまで深く認識し、どこまで深く考え、どこまで過不足なく言語化できたかが焦点であり、それは自分の回答を検討することで見えてくるはずだ。
先述のように、言語化能力は持って生まれたもので決まるわけではなく、経験や訓練によって高めていくことができる。また、「問題解決能力」や「問題発見能力」「コミュニケーション能力」「意思決定力」といった個別かつ具体的な能力を伸ばしていくための礎である。
『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』では、人間の実務能力の成長のメカニズムとプロセスを多数の実践的なエクササイズをもとに解説している。
今回のテストで自分の能力を把握できた人は、本書を読むことで、今自分が取り組んでいる仕事や関心事項において、自分の能力が成長サイクルのどの位置にいるかがわかるはず。
同時に、ブレイクスルーのためには何が足りないか、何をすべきかも見えてくるはずだ。
(新刊JP編集部)
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