新年度が始まって早くも一カ月が過ぎました。
新しく部下を持つことになった管理職一年生や、異動でこれまでとは違う部署を束ねることになった上司は、これまでとは勝手の違う毎日に悪戦苦闘している時期かもしれません。
「マネジメント」という正解のない仕事で成果を出すために、どんな力を養い、どんな考えを大切にすべきなのか。
『一流マネジャーの仕事の哲学 突き抜ける結果を出すための53の具体策』(日経BP刊)の著者で、シャープ、インテルジャパンと、名だたる企業でマネジャーとしての実績を持つ西岡郁夫さんにお話をうかがいました。
(新刊JP編集部)
――『一流マネジャーの仕事の哲学』( 突き抜ける結果を出すための53の具体策)には、シャープやインテルでの経験を元に、主に中間管理職へのアドバイスが綴られています。今の時期でいうと、異動で新しい部下ができたり、昇進で初めて部下を持った時、まずはその部下たちからの信頼を得るところでつまずきがちですが、この点について助言をいただきたいです。
西岡: 新任上司は部下にどんどん教えて貰うことです。初めからリーダーシップを取ろうと部下を指導しようとしても、部下の方が仕事をよく知っているのですから無理です。会社も職場も助走期間が要るのは読み込み済みです。初めての職場では上司にも部下にもドンドン教えてもらってドンドン覚えて行くことです。その吸収の速さ習熟の速さでまず「流石!」と認めさせる。そして、貴方の知見、経験から新しい視点も加えて行ってリーダーシップを確立するようにしましょう。
――また、自分のチームの士気をいかに高めるかという点も、自然にできる人もいればなかなかできない人もいます。部下たちの仕事への熱意が弱いと感じた時、西岡さんはどのようにチームを鼓舞してきましたか?
西岡:士気の低い部下をイキナリ鼓舞しようとしてもダメです。部下たちの士気が低いのは上司がリーダーシップを獲得していないから起きることで、そんな状態で鼓舞しても相手は余計に引いてしまいます。これは本当に怖いことですよ。
私はシャープに研究者として入って、比較的早い時期に部下を持ったのですが、自分も部下と一緒に研究活動に従事し、背中で引っ張っていました。歳も近く、みんなは楽しくついてきてくれました。
42歳で突然、事業部長に抜擢されて未経験の事業部門のしかも長になった時は状況が激変しました。550人の部下を持つことになったのですが、そこの人たちは副事業部長がそのまま昇進して事業部長になると思っていたんです。面白く思わない人もいたし、ほとんどの人は私を知りませんでしたから部下を鼓舞しようとしても白けるだけでした。
――確かにまだ鼓舞できる状態ではないですね。
西岡: 任された事業の業績回復のため一生懸命働きました。毎日職場を出るのは深夜でした。部下である管理部長が「事業部長、そんなに働かれても誰もあなたにはついていきません。我々がついていきたいのは、順序では本来事業部長になるはずだった副事業部長ですから。事業部長は研究所に帰ってください」とついに本音を言ってくれました。
翌日、V字回復のための来期の事業計画を係長以上の人に発表する会議がありました。諄々と説明する積りであった私の口から出たのは「おまえら事業部長をナメとるだろう!」という言葉でした。
「すぐに研究所に逃げ帰ると思っとるだろうけどそうはいかんで!この事業部長について来れない奴は今すぐ部屋から出ろ」でした。それ以後です。私の命令が事業部前提に浸透するようになったのは。私の事業部へのコミットメントとして理解してもらえたのでしょうね。信頼関係が生まれ、リーダーシップが確立したのです。1年以上かかりました。
――コミットメントについては、本の中で「リーダーシップの源泉」と書かれていましたね。
西岡:コミットメントは、自分がこうするという決心を固めて、それを達成するまでやり抜くという実行宣言です。上司が自分の意思と熱意を部下に伝えることで、部下は安心してその上司についていくことができます。
(後編につづく)
『一流マネジャーの仕事の哲学 突き抜ける結果を出すための53の具体策』の著者、西岡郁夫さん