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なぜロジックツリーは使われないのか? ハイパフォーマーの仕事の仕方

 長時間労働や生産性の低さなどから「働き方改革」が叫ばれる昨今、業務量は減らず、でも「残業時間を減らす」という目標が掲げられ疲弊する現場もあるだろう。

なぜ生産性が低いのか。それを解決する方法とは?

『ひとつ上の思考法』(クロスメディア・パブリッシング刊)の著者で、事業改革パートナーとしてさまざまな企業の現場を見ている安澤武郎さんに、実践的な事例を交え、仕事の精度が上がる組織作りについて、お話をうかがっていく。

(新刊JP編集部)

■生産性をあげるために必要なものとは…?

――最近、「日本人の生産性が低い」という話題がありました。この「生産性」を考える際にどのようなことに気をつければ良いでしょうか?

安澤:本書の中で、V=F/C という公式を紹介しています。

Vは「Value」、仕事の価値のことです。Cは「Cost」、コストです。そしてFは「Function」、はたらきです。つまり、価値は仕事が生み出すはたらきをコストで割ったものと言えます。

例えば、会議には様々な「はたらき」が期待されます。「問題を解決すること」「情報を共有すること」「参加者のモチベーションを高めること」などです。生産性の高い会議とは、その会議に求められている「はたらき」を、短時間で出せた会議ということになります。しかし、どのような「はたらき」が求められているのか? これが定義されていない会議、参加者によってバラバラな会議が多い。つまり目的が曖昧なのです。

――では、定例会がよくなりがちな「そもそもこの会議の目的はなんだっけ?」という会議は生産性がない、ということですね。

安澤:そうです。目的がなければ生産性は0ですね。定義付けはとても大事です。目的が曖昧だと、残業時間削減に取り組んだ結果、もしかしたら必要なものまで削り取られてしまうかもしれない。

残業時間を減らすことが目的化すると、家にパソコンを持ち帰り、業務時間外で仕事をすることになる。それではまったく意味がないですから。

――「目的の設定」が大事になると思うのですが、これを経験したことがないまま社会人になった人は設定の仕方から勉強しないといけないわけですね。

安澤:そうです。先ほどの会議の目的に関しても、様々な目的が考えられます。どれが正解というものではなく、その時の環境やステージによって変わるものです。そういう複雑な事象を整理して、「これを目的にしよう」と一つ一つの仕事で意思決定をすることが高いパフォーマンスに繋がります。

この意思決定をするために有効な道具がロジックツリーです。複雑な問題を整理して、自分の中で取り組むべきことを絞り込む上で欠かせません。しかし、これほど多くの本で紹介・解説されているにも関わらず、実務の現場では全くと言っていいほど使われていません。いくら本を読んで勉強しても身につかないのは使わないからです。

なぜ使えないのか?というと、「抜け漏れなく作成しなければいけない」「ちゃんと考えなきゃいけない」と正しさを求めてしまうことにあります。「ロジック」「論理」なんて言葉を聞いた瞬間に、「難しい」と拒否反応を起こしている人もいますが、難しく考えすぎなんです。まずは稚拙でもいいから紙に書き出して使い始めることが大事ですし、実は誰もが生活の中でやっている「場合分け」とかをしているに過ぎません。

そうやって脳みそに汗をかかないと、思考力は手に入りません。筋トレと同じです。そう言った考えることをせずに、安易に「答え」だけを求めている人は、無駄なことをしていても気がつきませんし、生産性の低い仕事をしています。

ある程度考えてやるべきことが整理できたら、意思決定をしてすぐに実行をする。そして、軌道修正をするというサイクルを早く回すことが生産性を高めていきます。

――ここまでのお話の中で、安澤さんがコンサルティングをしてきた企業の話が出てきましたが、「コンサルタント」ではなく「事業変革パートナー」と名乗っていらっしゃいます。それは一体なぜですか?

安澤:私は、硬直化した企業が新しい方向に向けて舵を切れるように支援をしています。クライアントの社内には、「今のままではいけない」という漠然とした不安や「こっちに舵を切るべき」というおぼろげな方向性は存在します。しかし、自分の考えで行動できない現場リーダーが多いと、リスクを恐れたり、プライドを守りたい人間組織をなかなか動かせないのです。

そのような企業を支援する際に、いくら「正しいこと」を言っても変化は起こせません。本人たちに自分でその答えにたどり着いてもらわねばなりません。「コンサルタント」というと世間的にアドバイスをする仕事というイメージがあります。知識が豊富で、何か「答え」を教えてくれる存在です。そのような誤解を与えると仕事がしづらくなります。そこで、「パートナー」という位置付けを強調しています。

実際、企業の中に入って、同じ釜の飯を食うこともしなければいけないですし、その企業の常識に惑わされず客観性を維持しないといけません。企業の外でもない内でもない「縁」に立てた時に最も影響力を発揮できる仕事です。

――今、安澤さんが取り組まれている「営業革新プログラム」という営業の組織力を高めるプログラムもそうした姿勢がベースとなって生まれたものなんですね。

安澤:そうですね。売れないけれども実は売れるはずの商品はたくさんありますし、お客様からの問い合わせが来てチャンスだったはずなのにお断りを入れてしまったというケースもあります。「自社の価値を100%顧客に届けられていますか?」と問えば、向上余地はたくさんあるはずです。そういう課題に組織で向き合って、進化する営業組織を作っていくプログラムが「営業革新プログラム」ですね。

―― お聞きしたいのですが、安澤さんがこれまで読んだ本の中で、新任マネジャーにすすめたい本を3冊あげていただけますか?

安澤:まずは山岡荘八の『徳川家康』で、視座の高さを学べる小説です。新任マネジャーは現場目線が強くなりがちですが、経営者目線で考えることを疑似体験できるはずです。実際、現場と経営者は考えている時間軸や範囲が違いますからね。経営者の目線を持てないと、板ばさみになってしまいます。

次に、多様性を理解するという意味で『異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』という、エリック・マイヤーさんの書籍をおすすめします。自分と違うタイプの人の考えを理解するための一助となるはずです。

最後は、内田樹さんの『修行論』ですね。学ぶということがどういうことなのかを考えるのに良い本です。仕事の目的、生きる目的、内田さんから学べることは多いと思います。

――ありがとうございます。では、読者の皆さまにメッセージをお願いします

安澤:この本の233ページに載っている「ダブルループ」の図表はぜひ見てほしいですね。「体験/成果」→「内省」→「法則化」→「新たな挑戦」というこのサイクルを実際に自分から体験し、身につけることが大事です。

良い戦略があっても実行されないという課題はどの会社にもあります。その問題をどう解決するか、ひいては目的は何なのか、実現したいことは何か、突き詰めて考えることから始めていくといいはずです。

(了)

『ひとつ上の思考法』の著者、安澤武郎さん

株式会社オトバンク「新刊JP」

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