サービス業の人はもちろん、どんな仕事でも、時には顧客からのクレームを受けることがあります。
「クレームはサービス向上のチャンス」と、耳を傾けるのは大事なことですが、最近は「モンスタークレーマー」と呼ばれるような、理不尽で理屈の通じないクレーマーも増えているため、クレーム対応にはリスクがつきまとうのも事実です。
こうした状況に、企業と現場で働く人はどんな対処をしていけばいいのでしょうか。今回は『どんなクレームも絶対解決できる!』(あさ出版刊)の著者であり、クレーム対応研修で多大な実績のある津田卓也さんにお話をうかがいました。
(新刊JP編集部)
――『どんなクレームも絶対解決できる!』についてお話を伺いたいです。近年顧客から企業や店舗へのクレームは激増しているということをよく耳にしますが、この背景にどんなことがあるのか教えていただければと思います。
津田:一つは単純で、便利になってクレームをつけやすくなったことです。インターネットで知った情報を元にすぐ電話をかけられます。
また、自分の権利や主張だけを声高に叫ぶ人が増えたのも確かですよね。自分がよければいいけど、自分が不快だとすぐに文句を言ってくる。
わかりやすく言うと、空調を25℃に設定した電車に乗っていたら、ある人にとっては寒いかもしれないし、別の人にとっては暑すぎるかもしれません。体感温度は人によって違いますから、みんなが納得するなんてありえないでしょう。
でも、こういうことが簡単にクレームになってしまうのが今なんです。みんなで一緒に暮らしている意識が薄くなり、他の人のことを思って我慢しようという考えがない人が増えてしまったことは、クレームが増えた大きな理由だと思っています。
――これまで我慢していたようなことで我慢をしなくなっている。
津田:こういう例はいくらでもあります。病院の受付で診察の順番が回ってきた時に名前を呼ぶと、個人情報だから名前を呼ぶなという人がいるから、じゃあ受付番号で呼ぶと「どうして囚人でもないのに番号で呼ばれないといけないんだ」と怒りだす人がいる。
これは「顧客満足」にかかわる話です。それぞれ好き勝手なことを言ってくる顧客の中の誰の言うことを聞けばいいのか。対応する側がどうしていいかわかっていないから、大きなストレスを抱え込むことになってしまいます。
――こうした状況に、店舗や病院、役所など相手と直接対面する現場ではどんな対応が必要なのでしょうか。
津田:まずは「自分たちにとっての顧客とは誰か」と定義することです。顧客の中には「金を払っているんだから客だろう」という態度でくる人もいるかもしれませんが、どこまでが顧客で、どこからは顧客ではないかという線引きは自分たちでしないといけません。
――顧客を定義すれば、全てに対応する必要はなくなる。
津田:そうです。「お客様は神様です」ということで全ての人に対応しようとするから現場に過剰な負荷がかかるわけで。顧客満足度を上げたければ、まず顧客とは誰かを決める必要があります。
――しかし、そうなると現場の一存でできることではなくなってきますね。
津田:顧客を定義する時は、現場だけでなく運営会社も出ていくべきです。
「クレームはサービス向上のチャンス」ということが言われますが、全てのクレームがそうではないことは、現場で働いている人はよくわかっていると思います。
この本ではクレームを「一般クレーム」「特殊クレーム」「悪意クレーム」の三種類に分けて、対応を解説しているのですが、その中の「特殊クレーム」が代表的で、応対する人員や時間ばかりがかかってしまう。
――精神面の問題から突然激高する、ストーカーのように付きまとう、明確な主張もなくただ長話を続ける、上から目線でお説教をするといったタイプのクレームですね。
津田:こういうクレームをつける顧客に対しては相手にしなくていいという判断を会社側がする必要があって、それをしないと現場が疲弊して、心を病んでしまうスタッフが出ます。
「クレーマーの中にはおかしな人もいる」ということを会社側が把握して、「このラインを超えたら法的手続きをとるから」ということを言ってあげれば現場の個人は救われるんです。
そのうえで、「電話がかかってきたら5分応対して、その時間が過ぎたら他の電話がかかってきたからといって切ってもいい」というように、現場レベルでの対応策を決める。そうしないと真面目で優しいスタッフほどストレスを抱え込んでしまいます。これは、組織が解決策を示さないといけません。
――「特殊クレーム」に対する時、他に組織としてやるべきことはありますか?
津田:とにかく記録することです。電話なら録音して、録音できなければメモを残す。たとえば、コールセンターの通話記録の保存期間は通常3ヶ月くらいなのですが、これは短すぎで、少なくとも5年は保存すべきだと思っています。
中には10年以上つきまとうクレーマーもいます。当然、その間に応対するスタッフは入れ替わるので、記録がないと後から入った人は、相手が何を言っているかわかりません。
――教育現場に目を移すと「モンスターペアレント」が話題になることが多いですが、こうした人たちの言い分も「特殊クレーム」に近いものを感じます。
津田:モンスターペアレントの言い分については、特殊クレームというよりは、単に常識を知らなくてわがままなだけと考えています。
そういう相談も受けるのですが、モンスターペアレントはインパクトがあって目立つだけで、数としては少数です。学校全体でいったら1割もいないはずですよ。
それと、こちらについては応対する教師側のコミュニケーションにも問題があるような気もします。彼らは学生からそのまま教師になるので、交渉事とか対人折衝の経験がないですし、そういう研修を受けているわけでもありません。向かってくる人に対して防御する術を持っていない人がすごく多いんです。
――津田さんのもとには日々様々なクレームについての相談がくるかと思いますが、風変わりなクレームの事例がありましたら教えていただきたいです。
津田:飲食店で、注文したものの中に小さな釘が入っていたといってゴネるお客さんがいて、病院に連れていってレントゲンを撮ってみたら、胃の中に大量の釘が写ったという話があります。
無銭飲食をするために自分で飲み込んでいたのでしょうが、バレたと思ったのかその人は病院から逃げてしまったそうです。
そういうびっくりするような人もいますし、いちゃもんとしか言いようがないクレームを入れる人もいます。
マンションで、「隣の部屋の給湯器の音が夜中に急に大きくなる。うるさいからどうにかしろ」というものとか。給湯器の音量なんて変えられないでしょう(笑)。
――気のせいとしか思えません。
津田:気のせいですよ。でも、そういうことでクレームを入れる人はたくさんいるんです。
(後編につづく)