「世界のトップリーダー」と聞くと、とにかく頭がキレて、近寄りがたい雰囲気を持っているというイメージが浮かぶかもしれない。
しかし、『Forbes JAPAN』副編集長兼Web編集長で経済ジャーナリストの谷本有香さんは、これまで3000人のトップリーダーたちと面会してきた中で、彼らは「自然体」を武器にしていると述べている。
自然体とは、自分の良い部分だけではなく、ダメな部分もさらけ出すということ。それでも、人々は彼らについていくのである。
数々の驚きエピソードを通して、成功を引き寄せるリーダーの習慣を解き明かす谷本有香さんの『何もしなくても人がついてくるリーダーの習慣』(SBクリエイティブ刊)から、トップリーダーたちの「変人」とも受け取れる行動を7つ選んでご紹介しよう。
1、他社の商品をほめる――スターバックスCEO ハワード・シュルツ氏
スターバックスのCEOとして知られるシュルツ氏。谷本氏が「スターバックスのコーヒーは確かに美味しいけれど高い。マクドナルドは100円だが味もいいのでは?」と意地悪な質問をしてみると、「そうなんだよ、マクドナルドのコーヒーは美味しいよね」と認めてしまったという。
実はこのシュルツ氏の自然体の姿勢が、多くのメディア関係者の心をひきつけているのだという。どんな発言をするか分からないという意味では、スターバックスの広報担当者からすれば気が気でないのかもしれないが、リーダーがコーポレートイメージを作り上げている好例だろう。
2、自分より優秀な人を雇う――スターバックスCEO ハワード・シュルツ氏
こちらもシュルツ氏のエピソードだ。リーダーはどうしてもお山の大将になりたがり、自分より優秀な人間を脅威に思うものだ。しかし、シュルツ氏はシアトルのコーヒー店にすぎなかったスターバックスを全米で展開するために、自分より経験のある優秀な経営専門家を採用することにした。
厳しいことも言われ、価値観の違いから衝突もあったが、その結果、コーヒーも顧客も等しく大切にする価値観を育んでいく風土が完成した。スターバックスが大きく成長できたのは、彼らあってのものとシュルツ氏は述べている。
3、大ボラを吹く――日本電産創業者 永守重信氏
嘘をつくのはいけないことだが、企業を大きく成長させられるリーダーは大ボラを吹く。ホラとは「大げさ」「でたらめ」という意味だが、永守氏は「大げさなデタラメのように聞こえることを、現実にするのが起業家だ」と言い放つ。
日本には「ホラ吹き三兄弟」というトップ経営者3人がいるという。ソフトバンク社長の孫正義氏、ファーストリテイリング会長の柳井正氏、そして永守氏。彼らは人々に希望を与える「大ボラ」を吹き、本気で取り組み、命懸けで実現させる。ホラ吹きは信頼されないのではなく、ホラを吹いたあとの行動によって評価は変わるのだ。
4、出しゃばらずに譲る――萩本欽一氏
コメディアンの萩本欽一さんは「出しゃばらずに譲る」という考え方で長寿番組を作ってきたという。例えば人気絶頂時に「スター誕生!」司会者のオファーがあったときには、「自分は司会ができないから、司会ができる子をつけてほしい」と言い、それが「アシスタント」の走りになった。
萩本さんは「自分が、自分が」と出過ぎると運が逃げてしまうこと知っていたのだろう。自分のものだけにせず、周囲に譲ることも成功の近道である。
5、ペラペラのエコバッグを持って会食――元ソニー社長 出井伸之氏、東大名誉教授 黒川清氏
ペラペラのエコバッグは一例であり、トップリーダーたちは自身の服装や鞄に対してあまりこだわりを持たないことが多いという。
トップリーダーたちはどこかに「ヌケ」を作っていることが多い。「ヌケ」とは、おおよそトップリーダーらしさとは正反対の、一般人に「自分たちと同じだ」と思わせてくれる部分である。そうした「ヌケ」の部分が魅力になり、人々から語られたり、メディアからの反応も良くなるのだという。
6、社員から「社長」と呼ばせない――元エルピーダメモリ社長 坂本幸雄氏
坂本氏は「半導体業界の救世主」とも言われる、知る人ぞ知る名リーダーだが、会社では自分のことを「社長」と呼ばせなかったそうだ。「坂本さんでいい!」と。
肩書きではなく名前で呼ぶことは、親近感を覚えさせる。著者によれば、海外の企業では、大企業においても社員が社長のことを「ジョン!」などとファーストネームで呼ぶ文化があり、闊達に意見を述べられる空気ができているという。日本ではあまりファーストネームで呼ぶ文化はないが、もしもっと社内を活発にしたいと考えているならば、試しにやってみるのもいいのかもしれない。
7、ジョークが上手――経済学者 ポール・クルーグマン氏、哲学者 マイケル・サンデル氏
この2人に限ったわけではないが、トップリーダーたちに質問を投げかけると、ユーモアをもって返答してくれることが多い。ノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン氏は、ジョークを交えて場を和ませながら話をする。また、サンデル氏も相手を笑わせながら話をしてくれるそうだ。
ギャップを演出して笑わせたり、その場にいる人たちとの共通点を言ってホッとさせたりする話し方は、自分自身を身近に感じてもらうためのイメージ作りとしては最適だ。
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『何もしなくても人がついてくるリーダーの習慣』に書かれているトップリーダーたちの自然体エピソードを並べていくと、彼らはある意味で、戦略的に「自然体」の姿勢を取っていることがうかがえる。しかし、それは自分のための戦略ではなく、もっと大きなもののための戦略だ。
金太郎飴のようにどこを切っても同じリーダーでは、面白さも生まれず、差別化も図れないだろう。
完璧なリーダーよりも、多少ダメな部分があっても人を楽しませてくれる、夢中にさせてくれるリーダーに、人はついていくのである。自身がリーダー的存在であっても、そうでなくても、リーダーという存在について考える上で、大いに参考になる一冊だ。
(新刊JP編集部/金井元貴)
『何もしなくても人がついてくるリーダーの習慣』(SBクリエイティブ刊)