体力や容姿の衰えや、体の不調など、忍び寄る老化の兆しに気がつくと、憂うつな気持ちになりますよね。
いつまでも若々しく、元気に明るく毎日をすごすために、私たちはどんなことを知ってどんなことに取り組めばいいのでしょうか。
今回は『老いない体』の著者であり、Z‐MON治療院を主宰する整体師・寺門琢己さんにお話をうかがいました。
■体で静かに起きている「老化の3ステップ」とは
――本書では、老化した体に起きることとして「過熱・乾燥」「雑菌の侵入」「炎症」の3つが挙げられていました。
寺門:本の中では「過熱・乾燥」「雑菌の侵入」「炎症」を「老化の3ステップ」と書いています。
わかりやすく皮膚を例に出しますが、年をとるごとに皮膚は乾燥しやすくなりますから、アトピーのように体のいたるところがかゆくなるケースが増えて、人によってはそれに耐えられずに皮膚を搔き壊してしまう。その傷口から雑菌が入って炎症を起こします。
これは皮膚に限ったことではなくて、唾液にしても涙や粘膜にしても、加齢によって水分が少なくなるのは同じです。水分が少なくなるということは、それだけ異物の侵入を防ぐ体のバリア機能が弱っているということで、やはり雑菌に入られやすくなってしまう。
その結果、発熱や歯肉炎、角膜炎といった炎症が出てしまいます。これを踏まえると、いかに水分の多い潤った体を保つかが、いつまでも健康で若々しい体を保つためのポイントなんです。この本ではそのための知恵について書いています。
――若々しくいるために、フィジカルな部分では肩甲骨と股関節を重視されていますね。
寺門:肩甲骨と股関節の可動域が狭くなることが、体の様々な不調につながってきます。通常、腕を後ろに引くと、肩甲骨が畳まれて背骨の方に寄ってくるものですが、この可動域が狭くなってしまってこの動きができなくなる人が多いんですね。
すると、首が回りにくくなったり、腕が痺れたり、肩こりであったり、不定愁訴であったり、という症状が出てくる。
股関節もまったく同じです。現代人が普通に生活する限り、股関節というのはほとんど動かさずに済みますからね。昔はトイレが和式だったので、しゃがむ動作で股関節を使っていたのですが、今はそれもないので、どうしても股関節の可動域は小さくなってしまいます。
肩甲骨と股関節については、本の中で同時に動かせるエクササイズを紹介しているので、ぜひ参考にしてみていただきたいです。
――股関節と関係があるのかはわかりませんが、一日デスクワークをすると使っていないはずの足に思いのほか疲労が溜まっていて、太腿やふくらはぎが張ることがあります。
寺門:足は本来動かすように作られていますからね。デスクワークというのは実は一番足に悪いんです。
それと、デスクワークをする時は、革靴か人によってはスリッパを履いているでしょう。どっちにしても滑りやすくて、椅子に座った時にグリップが効きません。するとどういう体勢になるかというと、椅子の上に乗せた坐骨だけで座ることになる。
かといって足を完全に脱力するとお尻がすべってしまうので、多少は力を入れていないといけません。つまり足を上げても下げてもいない中途半端な状態で長時間過ごすわけで、これが一番疲れが溜まるんです。
だから、デスクワークをする時は滑らない機能のついた履物に換えるというのは一つ解決策になります。それであれば足は脱力できるので。
――最後になりますが、年齢からくる心身の衰えや体の不調に悩んでいる方々に向けてメッセージやアドバイスをお願いできればと思います。
寺門:自分の生活を振り返っていただいて、毎日欠かさずやっている体のメンテナンスというのは、ほとんどの人は歯磨きくらいではないでしょうか。
猫は一日中毛づくろいをしていますし、鳥は身づくろいして体についた虫を食べたりします。彼らはそうやって雑菌や異物から身を守っているわけですが、人間はそういった動物と比べると自分の体のメンテナンスにかける時間がすごく少ないんです。
それでいて万全というわけではなく、あちこちに痛みや不調を抱えている。それならば人間も歯磨きだけでなくもっと自分の体の気になるところに対して何かやるべきことがあるのではないかと思います。
日頃感じるちょっとした違和感や不快感を我慢したり無視することで何が起こるかというと、自分の状態を感じ取る感覚が鈍ってきます。これではいずれ体に重大な異変が起こっても気づかなくなってしまう。
――確かに、思い当たるところがあります。
寺門:ぎっくり腰などはまさにその例ですよね。これは自分の状態を把握する感覚が鈍ったことで、自分の身体感覚と現実の能力の間のズレが大きくなっているから起きることだといえます。
スポーツ選手は、そういった身体感覚に優れた人たちですが、彼らですら今の時代はトレーニングを一人でやるのではなくてトレーナーをつけるでしょう。そうやって、自分の状態を正確に把握できるようにしているんです。
一般人がそこまでやるのは無理だとしても、もう少し自分の状態を知ったり、その状態と自分のとった行動との因果関係について考える取り組みはした方がいい。生活は体がないと成り立たない割には、多くの人が自分の体を雑に扱いすぎているような気がします。
「生きているか死んでいるか」に比べたら「老いているか老いていないか」というのは曖昧です。だからこそ死ぬ寸前まで、人はあまり自分が老いたとは思わず、ケアを怠ってしまいがちです。
神経質になる必要はありませんが、身体感覚と現実の自分があまりに乖離してしまうと様々なトラブルの元になるので、最低限の身体感覚は維持した方がいいですよ、というのはメッセージとして伝えたいですね。
(新刊JP編集部)
『老いない体』(幻冬舎刊)