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トランプ大統領を生んだアメリカの「企業と政治の癒着」の実像

 ドナルド・トランプ氏の大統領就任から一カ月あまり。

就任早々の大統領令連発やメディア批判など、選挙戦中と変わらぬ騒々しさに、ニュースを見ているだけで疲れてしまう人も多いのではないか。

ただ、それでもドナルド・トランプという人物がアメリカの大統領になってしまったという事実に私たちは向き合わなければならない。その背景には、格差社会の成れの果てがあり、それは日本にとっても他人事ではないからだ。

■格差と癒着に疲れ果てたアメリカの実像
「なぜクリントンが負け、トランプが買ったのか」または「なぜトランプの勝利をメディアは予想できなかったのか」という検証は、選挙終了後から大統領就任までの期間内にさまざまな形で行われてきた。

しかし、そのほとんどは専門家によるマクロ的見地からのもので、トランプを支持したアメリカ市民の声が取り上げられることは少なかった。

しかし、トランプを支持したのは本当に「無知な人々」だったのだろうか?

『アメリカで感じる静かな「パープル革命」の進行とトランプ大統領誕生の理由』(ジュンコ・グッドイヤー著、シャスタインターナショナル刊)は、「誰が、なぜトランプを支持したのか」という問いに一石を投じる。

日本出身だがアメリカ人の夫を持ち、アメリカで暮らすジュンコ・グッドイヤーさんは、今回の大統領選挙でトランプに投票した一人であり、選挙結果についても「驚きでもなんでもなく、アメリカにとって必然に近い流れ」としている。

その理由は「格差」と「政治と企業の癒着」だ。
アメリカに広がる「格差」については今さら説明するまでもないだろう。夫の仕事の都合でアメリカ国内を転々とした著者は、格差という言葉では表しきれない光景を各地で目にした。

それはすでに飢餓が生じるレベルにある低所得者層の生活であり、72%がシングルマザーだという黒人の母親の状況であり、フードスタンプ受給者が陥る貧困と病気の負のスパイラル(フードスタンプだけでは必要な栄養を満たせず、ジャンクフードに偏った食生活を続けるうちに高血圧や糖尿といった疾病を抱え、それがさらなる貧困の引き金となる)である。

数々の暴言は言語道断として、トランプが国民向けに掲げているのはつまりこういうことだ。
「行きすぎた格差への対応として社会保障を歓迎し、グローバリズムは一旦調整して内需拡大を目指す」

貧困に疲れ果てた層だけでなく、それを日常的に見続けてきた人にとって、トランプの主張が魅力的に映るのはある意味当たり前のことだ。

■「ウサギへのスウェーデン式マッサージの施術研究」に税金が投下されるアメリカの闇
もう一つ、選挙戦中からトランプがやり玉に挙げていたのが「企業と政治の癒着」だ。

アメリカは、特定の企業と政治家・官僚との橋渡しをして、政治献金と引き換えにその企業に有利な政策や政治的方針を引き出すロビー活動が盛んな国だ。これが高じた結果、「政治を企業が買う」状態になってしまっている問題が、アメリカを長くむしばんできた。

「マウンテン・ライオンが人間の運動用ランニングマシーンを利用して走る映像の制作」(カリフォルニア大学サンタクルーズ校・85万6000ドル)
「ウサギへのスウェーデン式マッサージの施術研究」(オハイオ州立大学・38万7000ドル)

これらは、ともにオバマ政権下のアメリカ政府が税金を投下したプロジェクトだ。
ただでさえ財務状況の不安定なアメリカで、このような何になるともわからないプロジェクトになぜ政府予算を投入するのか、勘繰らない方がおかしい。

オバマが放置し、寡頭権力側にいるヒラリーで決して変わらないであろうこの状況を、権力とのしがらみの少ないトランプが変えてくれることに期待するという心情は、トランプを支持した層に共通するものなのだ。

アメリカで暮らす市民が、昨年の大統領選挙中何を考え、ドナルド・トランプという人物をどうとらえているのか、本書ではジュンコさんの目から見たアメリカの実像が綴られている。

それらは、メディアで取り上げられる「無知で傲慢なトランプ」や「トランプ政権に絶望するアメリカ」とはかけ離れているかもしれない。

しかし、「なぜメディアはトランプを叩き、無知で傲慢な人物として喧伝するのか」というのもまた、アメリカが抱える闇の一部なのだ。これがどういうことなのか、ぜひ本を読んで確かめてみていただきたい。

(新刊JP編集部)

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