事実は小説より奇なり。
時に会社の創業記はどんなフィクションよりも刺激的だ。
兵庫県播州地域でグループ33店舗を展開する飲食店チェーン・株式会社八角もまた、そんな波乱に満ちている。
「金もない、場所もない、レジもレシピも人もない」という、ないないづくしのラーメン屋台で、1億円の借金に途方に暮れていた19歳の少年が主人公である。
■苦肉の策のラーメン屋台が大当たり 兵庫県の一大チェーンに
同社の社長である大西慎也さんの著書『手作り屋台が生んだ「やりすぎ飲食店経営」』(ダイヤモンド社刊)によると、大西さんは「飲食店をやりたい!」と夢見て高校を中退。
しかし、その通りに飲食の道に進んだ17歳の少年を待っていたのは、1億円という途方もない借金だった。半ば父親に騙される形で借金の保証人となった大西さんは、いきなり飲食の道に躓いてしまった。
アイデアマンではあったが問題児の父親が借金返済の秘策として思いついたのは、手作りのラーメン屋台。1杯500円のラーメンで1億円の借金を返済する羽目になった大西さんの未来は、この時点で真っ暗だった。
料理の経験はあったが、ラーメンについては素人。おまけに、父親が作った八角形の屋台には、壁も冷蔵庫もレジもなかった。本を片手に試行錯誤をしながらラーメン作りを始めた大西さんは、ビールはバケツの氷で冷やし、会計はセルフサービスというスタイルで、何とか営業を始めたという。
■株式会社化で順風満帆?リーマンショック、詐欺事件という荒波をいかに乗り越えたか
そんな波乱万丈の日々の中、それでもひたむきにがんばる姿が認められ、少しずつ店舗は拡大していった。
屋台から普通の店舗になり、業態を拡大してついにFC展開も実現。結婚、株式会社化で順風満帆と思いきや、波乱万丈の日々はまだまだ終わらなかった。
全国展開を目指してイオンに進出した瞬間にリーマンショックを迎えて大赤字を計上することになる。何とか窮地を乗り越え、通販を開始と思えば、詐欺事件に遭って大損害を出した。失敗だらけではあったが、それでも大西さんはそんな日々のなかで、一つずつ経営とは何たるかを学んでいった。
はじめは用語がわからず広辞苑片手に読んでいた経営資料も、今では店長たちに数字の読み方を教えられるまでに成長し、会社の方も倒産の危機からV字回復を果たした。本書では、中学時代の仲間同士のお友達経営から、本物の経営者へと変化していく様子が描かれる。
数十年にわたる壮絶な親子喧嘩や1億円の借金返済までの道のり、イオンへの挑戦や詐欺事件などなど、次々と起こる事件に何とか立ち向かう大西さんの姿は、飲食業をめざす人だけでなくあらゆる人々に挑戦する勇気を与えてくれる。
飲食をめざす人も、起業をめざす人も、夢を追いかける素晴らしさを教えてくれる一冊だ。
(新刊JP編集部)
『手作り屋台が生んだ「やりすぎ飲食店経営」』(ダイヤモンド社刊)