あなたは、ディグニティセラピーという言葉をご存知だろうか。
末期がんなど、治療の手立てがなくなり、ホスピス病棟に入院するような患者は、死に近づくにつれ、それまでできていたことが一つひとつできなくなっていく。そうなると、自尊感情はどうしても傷つきがちだ。
だからこそ、いかにして患者自身が尊厳を保てるかが、穏やかな最期を迎える上で重要になる。これが、ディグニティセラピーの根底に流れる考え方である。
ディグニティセラピーの実践者であり、『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』(アスコム刊)の著者・小澤竹俊氏による「いのちの授業」が、去る11月11日、東京都立荏原看護専門学校にて行なわれた。
では、ディグニティセラピーの実践として、医療従事者にはどんな働きかけが求められるのか。授業のなかで小澤氏は、「9つの質問」という手法を紹介しつつ、未来の看護師たちに向けて、それを実践する上でのポイントを語りかけた。
「9つの質問」とは、患者自身がこれまで、どんな役割を担い、誇りを持って日々を送ってきたか、その結果、どんなことを達成できたのかを振り返るための医療者側による問いかけ。
ひとつ代表的なものを挙げると、「あなたがこれまでで最も輝いた瞬間は?」という問いがある。
こう問いかけられることで、患者は自分の生き生きとしていた瞬間を思い出し、自身の人生観や価値観に気づいていく。そのことが、尊厳維持に有効なのだ。
患者はそうした気づきをきっかけに、家族を始めとした、自分を支えてくれる存在のありがたみにも思い及ぶ。そうした「支え」の存在を意識したとき、残された時間がどんなに少なくとも、人には変化が生まれるのだという。
そんな瞬間に立ち会えることこそが、終末医療という仕事の醍醐味だと小澤氏は語っていた。
授業の終盤では、小澤氏から「私たち医療従事者がどんな関わり方をすれば、患者さんは自分の“支え”への感情を強めてくれるのでしょうか?」との投げかけがあった。
そして、具体的な関わり方を体感するため、2人1組で、交互に医療者役と患者役になって対話をするというペアワークが行なわれる一幕も。
ペアワーク終了後、生徒が「患者役をしてみて、対話のなかで生まれる沈黙が苦ではないと感じた」と語り、それを受けて小澤氏も「それこそが、このペアワークのポイント」と解説。
小澤氏いわく、何かの問いかけに対して、患者側でこうした沈黙が生まれるのは、その人が一所懸命、あれこれとイメージをめぐらせている証拠。だからこそ、医療者には、じっと待つ姿勢が求められるのだという。
今回の授業は、「看護師の卵」に向けて行なわれたものだった。しかし、その内容は、医療現場にかぎらず、何らかの困難に直面している人、またはそうした人の支えになりたいと思っている人にとっても示唆に富んだものだと感じるものだった。
(新刊JP編集部)
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