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「どんでん返しの帝王」が報道のタブーに切り込む 怒涛のノンストップ・ミステリー

 凄惨な事件が起きたときに、疑いのある者や被害者家族の家に押しかけ、インタビューを取り、ニュース番組で報道したり、他者を出し抜いてスクープを狙ったりする。

時には「不幸を娯楽にしている」などと厳しい批判にさらされる報道の世界を、『このミステリーがすごい!』大賞受賞作家の中山七里氏が描いた。タイトルは『セイレーンの懺悔』(小学館刊)だ。

解説で「慟哭」と表現されたラスト16ページでは、中山氏の持ち味であり、その道では「帝王」とも呼ばれるほどの「どんでん返し」を充分に味わうことができる。

■マスコミとは、報道とは一体何なのか? 記者の成長

立て続けの不祥事によって、番組存続の危機にさらされていた帝都テレビのニュース番組「アフタヌーンJAPAN」。

社会部に配属になった記者・朝倉多香美と社会部のエース記者である里谷太一は、番組の起死回生となるスクープを狙って、葛飾区で発生した女子高生誘拐事件の真相を追いかけていた。

警察を尾行していた多香美は、廃工場で死体を発見してしまう。それは、暴行を受け、無惨にも顔を焼かれた少女――そう、誘拐事件の被害者である東良綾香の遺体だった。

彼女のクラスメートへの取材から綾香がいじめを受けていたという証言を得た多香美は、主犯格と思われる少女を突きとめるが、ここで多香美と里谷は取り返しのつかない“大誤報”を発してしまう。

その少女の家の前に集まり、メディアスクラムを組む報道陣。その様子を見て、里谷は仕事への覚悟を語る。

「ああして関係者から蛇蝎のように忌み嫌われ、ハイエナのように言われる。それでもネタを追い続けるのは、人の悪意や犯罪、埋もれた哀しみを白日の下に晒すことによって、少しでも世界を明るく照らしたいという一心があるからだ。逆にその思いがないのなら、こんな仕事はするもんじゃない」(P155より引用)

また、事件を捜査する官藤刑事は、多香美との会話の中で、マスコミをギリシャ神話に出てくる上半身が人間の女、下半身が鳥の姿をした怪物セイレーンに例える。

「岩礁の上から美しい歌声で船員たちを惑わし、遭難や難破に誘う。俺に言わせれば君たちマスコミはまるでそのセイレーンだよ。視聴者を耳触りのいい言葉で誘い、不信と嘲笑の渦に引き摺り込もうとしている」(P186より引用)

「君たちがいつも声高に叫ぶ報道の自由・国民の知る権利とかいうのはセイレーンの歌声そのものだ。君たちにとって錦の御旗なんだろうが、その旗の翻る下でやっているのは真実の追求でも被害者の救済でもない。当事者たちの哀しみを娯楽にして届けているだけだ」(P187より引用)

この『セイレーンの懺悔』には、多香美の記者としての成長を描いた物語の側面がある。事件の真相を追う中で、記者としての使命や報道との向き合い方に葛藤を抱きながら前に進んでいくのだ。

最後の最後まで、事件の真相は二転三転する。少女を本当に殺したのは誰なのか。「どんでん返しの帝王」中山七里氏のスリリングなストーリーは夜の長さを感じさせない魅力がある。

(新刊JP編集部)

『セイレーンの懺悔』(小学館刊)

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