出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。
第85回は、新刊『何様』を刊行した朝井リョウさんです。
朝井さんといえば2013年、大学生が就職活動で抱えるジレンマや葛藤を描いた『何者』で、直木賞を史上最年少で受賞したことが大きな話題となりました。
今回の『何様』は、『何者』のサイドストーリー集。
光太郎や理香、隆良ら『何者』の登場人物の数年後や、数年前の物語が描かれています。
この作品と『何者』との関係。そして、直木賞受賞から3年、人気作家の道を歩み続ける朝井さんの「今」についてお話をうかがいました。(インタビュー・記事/山田洋介)
■「もう一度ストーリーを書く感覚を取り戻したい」
――20歳と、若くしてデビューされた朝井さんですが、小説を書き始めたのはいつごろですか?
朝井:小説と呼んでいいかわかりませんが、動物が主人公の絵本のようなものなら、小学校に入る前くらいに姉の真似をして書いていました。
その後、小学生の時に家にパソコンが来て、「一太郎」が使えるようになるともっと長いものを書けるようになって……という感じですね。
小学6年生の時に初めて小説の新人賞に投稿しました。当時はそれでデビューするつもりでいました(笑)。中学生の時は夏休みの自由研究として、毎年長編小説を書いていました。新人賞をいただけたのは19歳のころですが、それまでには長編だと10本以上は書いていたと思います。
――直木賞を受賞してから3年が経ちました。この間、どんな変化がありましたか。
朝井:生活上の変化としては、会社を退職したこと。作家としては、ストーリーものがより苦手になってきていることが変化かもしれません。
『何者』より前の作品は、結構ストーリーを重視して書いていたんですけど、『何者』で「ストーリーよりも自分の言いたいことを言おう」みたいな感じになって、それがたくさんの方に読んでいただけました。
こういう話の方が僕も書いていて気持ちよかったですし、読者の反応も大きかった感覚があったので、より「ストーリーはどうでもいい」と思うようになってきてしまって……今、それは良くないなと思っているところです。ストーリーも面白いし、これぞという一行もある、という作品を目指さないと。
――人生で影響を受けた本がありましたら、3冊ほどご紹介いただければと思います。
朝井:あまり読書体験が多くないのですが、佐藤多佳子さんの『一瞬の風になれ』は外せません。高校時代にこの本を一気読みしたあの幸せな記憶が、今でも執筆のエンジンになっています。読み終わりたくない! 一生この物語の中にいたい! と部屋でバタバタのたうちまわる読書体験、僕もいつか提供してみたいです。『一瞬の風になれ』のような小説を書くことは僕の目標の一つです。
また、さくらももこさんのエッセイには確実に影響を受けています。『もものかんづめ』『さるのこしかけ』『たいのおかしら』の三部作が特に大好きですね。とにかく内容がくだらなくて、「読書とは人生に何か大切なことを教えてくれるもの」みたいな出来れば信じていたい美しい定説が崩される瞬間がぎゅうぎゅうに詰まっていて、快感です。作家になったら絶対「ただ笑えるだけのエッセイ」を書こう、できれば三部作で、と決めていました。
子どものころに繰り返し読んだ、はやみねかおるさんによる『名探偵夢水清志郎シリーズ』も私にとって大きかったです。四作目の「魔女の隠れ里」という作品が大好きで、途中まで関西弁だったキャラクターが最後標準語で独白するシーンがあるんですよ。そこを読んだときにとにかくゾッとして。自分は関西弁だっていうだけでこのキャラクターを関西人だと思い込んでいた、と、その思い込みに驚いたんですよ。ずっと、人間を書くときはその人物を立体的に捉えることを意識しているんですが、それは「魔女の隠れ里」が影響していると思います。
――今後の執筆の予定と、今後の活動の豊富をお聞きしたいです。
朝井:今は中央公論新社から出ている「小説 – BOC」という文芸誌の「螺旋プロジェクト」に参加しています。
8組の作家が、ある対立軸のある世界を古代から未来まで書き繋いでいく、というプロジェクトです。僕はその「平成」のパートを担当しているんですけど、本になるのはまだ先ですね。
来年は念願のエッセイ集第2弾を出す予定です。さくらももこさんみたいに、くだらないエッセイ三部作を完成させたい!
第1弾が『時をかけるゆとり』というタイトルだったので、第2弾は『風と共にゆとりぬ』にしようと思っています。ウケてもらえたらいいな~。
――となると、3冊目の「ゆとり」も気になります。
朝井:2020年でデビュー10年なので、第3弾を出せるならその年に出したいですね。でも売れないと出せないと思うので……本当にみなさんどうぞよろしくお願いいたします(笑)。
あとは、前述した『一瞬の風になれ』みたいなスポーツ長編をずっと書きたかったので、いよいよ取材を始めて動き出しています。その長編に向き合いながら、もう一度「ストーリーを組み立てる感覚」を取り戻したいです。
■取材後記
直木賞受賞以降も、話題作を次々と生み出している朝井さんが「ストーリーを考えるのが苦手」というのは驚きでしたが、作家として大事にしているものや、フィクションについての考え方を知ることができた貴重なインタビューでした。
今回の『何様』、そしてご本人が「幸福な映像化」と語った映画『何者』と、さらなる活躍を予感させるリリースが続く朝井さん。次はどんな作品がくるのか、早くも楽しみです。
(インタビュー・記事/山田洋介)
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