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「デスクの上には何もありません」 ミニマリストの仕事術について話を聞いてみた

 2015年の新語・流行語大賞候補にも上がり、テレビをはじめとしたメディアがこぞって取り上げた「ミニマリスト」。物を持たない生き方を標榜するこの考え方を提示したのが、2015年6月に出版された『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス/刊)だった。

 著者はワニブックスの編集者である佐々木典士さん。編集者といえば、とにかくデスクが汚いイメージがある人も多いだろう。確かに親しい編集者に話を聞いてみると、そのほとんどが「資料や本が積み重なっている」と返ってくる。ところが、佐々木さんのデスクは「明日退職する人のようにきれい」なのだそうだ。

 デスクがきれいなことのメリットは他の片づけ本でも語られているが、ミニマリストの考え方を仕事に応用することはできないだろうか? 今回は佐々木さんにインタビューを行い、「仕事」と「ミニマリストの思想」がつながる場所について語ってもらった。
(取材・文/金井元貴)

■「片づけられてないことがストレスになっていると、仕事に支障が出る可能性がある」

――以前のインタビューの際に、佐々木さんの仕事場のデスクにはまったくモノがないとおっしゃっていました。そのお話を受けてうかがいたいのですが、今でもデスクには何もないのですか?

佐々木:そうですね、デスクの上には何も置かないように心がけています。年末に(会社の)大掃除があったのですが、普段からきれいにしているので、自分のデスクでやることがないんですよ。だから会社の共用部分をいきなり掃除できました(笑)。

――デスクの上のモノを減らして少なくしていくことで、どのようなことが具体的に変わりましたか?

佐々木:これはよくいわれる話ですけど、探しものをする時間がなくなりましたね。また、モノがあったほうが集中できるという人もいますが、僕はそういうタイプではないので、モノがないほうが集中しやすいです。あと、メモ紙に伝言を残されたときも、分かりやすい(笑)。
使っているパソコンのデスクトップ画面には、極力アイコンを出さないようにしています。表示しているのは、その日しないといけない仕事のアイコンだけですね。そうすれば、今日何やるべきかがすぐに分かります。

――優先順位をつけやすくなりますね。

佐々木:モノが多いと、何から手を付けていいのか分からなくなることがあります。もちろん僕自身(優先順位の高い仕事からこなすことを)徹底できているかというと、そういうわけではないのですが、癖付けはできていますね。
自分のデスクの汚さを気にしはじめたら、片づけた方がいいでしょう。気になっているということは片づけられてないことがストレスになっているということですから、仕事にも支障が出る可能性があると思います。

――机の上の汚さは忙しさと比例するという話もあります。

佐々木:ミニマリストの方は逆にそれをバロメーターにしている方が多いです。忙しくないときはモノを溜めないように意識しますが、忙しいとどうしてもそれが疎かになりますから、デスクの上が散らかってしまったら、自分が管理できる量を超えてしまったと思うようにしているそうです。適正であれば忙しくてもモノはたまらないですから。

■「本当に大事なモノって実はそんなにないのでは?」

――モノがないということに対して不安を感じたり、困ったりすることはないのですか?

佐々木:それが全然ないんです。例えば辞書なんかはすべてスマートフォンのアプリに移行しました。また、先日韓国の方からインタビューを受けたのですが、そのときはGoogle翻訳を駆使しましたね。これが意外と通じるんです。

――本や雑誌を編集する際に、本を買ったり資料を集めたりすると思うのですが、その際はどう管理するのですか?

佐々木:同じような本をまた半年後に作ることが決まっている場合は(本や資料を)残しますけど、だいたいは作っていた本が出版される際に処分してしまいますね。もし必要だったら、また購入しなおしてもいいのですから。。
いつか使うだろうと考えてしまいがちなんですが、実際に使うことはあまりないんです。「いつか」を基準にすると、すべての資料を保存しなければなくなります。だから、1年に1度くらしいか使わない資料はスキャンしてデータ化して保存したほうがいいと思いますね。

――佐々木さんはデジタル化を率先して行っていますよね。モノを減らすという意味では良いと思うのですが、そうした機器が壊れるリスクもあると思います。

佐々木:これは悩みどころですね。データに依存していると言われることもあります。ただ、デジタル化したもので本当に大事なモノって実はそんなにないのではないかと最近思っていて、先日ハードディスクに保存していた写真のデータが消えたんです。でも、いいかなと思って(笑)。念のため復元はしたのですが、そんなに慌てませんでした。見返しもしないし。今この瞬間の方が大事なんですよね。
ただ、人によって絶対になくしたくないデータもあると思うので、その場合はオンラインストレージサービスの「ドロップボックス」などを使うなどして確実に保存すべきでしょう。

■「テレビは誤解されてもOKという気持ちで出演をする」

――この半年で一気にミニマリストという考え方が広まりました。ただ、お話を聞いていて、単純に物を捨てたり、減らせばいいという考え方でもないと思います。

佐々木:そうですね。確かにモノを減らすということなんだけど、自分にとって一番大事なものは何かを見つけて、それにフォーカスすることが目的の一つです。

――ただ、それが誤解されているように感じることはあるのでは?

佐々木:それはあります。ただ、誤解を生んでしまったきっかけを作ったのは自分自身だという気持ちも、もちろんあるので。

――メディア等で取り上げられた際の反応を見ると賛否両論あがっています。

佐々木:否の方も多いように思いますけど、、テレビは誤解される可能性を半ば前提にして出演するようにしています。伝えたいこともばっさりとカットされたりするし…でもあらゆるメディアははそういう傾向が少しはあるものですよね。。でもどんな出方をしても、何か心に引っかかりのある人には届くんです。自分の心のなかで、何かミニマリズムに惹かれている部分がある人にはちゃんと届く。そういう思いで、批判も必要以上に恐れず、メディアに出演するようにしています。

――賛否両論ありながらも発売即16万部突破。そしてオーディオブック版も配信が始まりました。本書の続編は考えていないのですか?

佐々木:今のところは考えていません。そういうお話ももちろんいただくのですが、この本で8-9割方は書き尽してしまったので(笑)

(了)

■取材後記
本が発売された直後にもお話をうかがったことがあり、今回、半年ぶりに佐々木さんにインタビューを行うことができた。半年前もそうだったが、佐々木さんは非常にシンプルにミニマリストの考え方や仕事についてお話しして下さった。
どんなことでも、シンプルなものが一番美しいと私は思うが、どうしても「あれもこれも」と付け加え、何がなんだか分からなくなってしまうことが多い。だからこそ、大事なものは一体何か、それを気付かせてくれることがミニマリストという思想の中で私が一番魅かれるところである。

■『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』オーディオブック版配信中
書籍を音声化したオーディオブック版の『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』がオーディオブック配信サービス「FeBe」にて配信中。通勤途中や仕事中でも音声で本書を読むことができます。
http://www.febe.jp/product/232629

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『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス刊)

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