少し前の話題ですが、今年の2月、JT(日本たばこ産業)が飲料製品の事業から撤退することを発表し話題になりました。JTの飲料製品といえば「Roots」や「桃の天然水」等、慣れ親しんだ商品を抱えるだけに、このニュースに残念な思いをした人も少なくないはず。
このように、どんな事業もいつかは「終わり」を迎えます。実際、マーケティングの分野には、「ライフサイクル」という考え方があり、事業はリリース後、時間が経つにつれ、導入期、成長期、成熟期、衰退期という4つのフェーズをたどると言われています。
ただ、短命な人や長寿の人がいるように、事業の「一生の長さ」も様々。そして、『オルビスという方法―――顧客満足を生み出し続けるビジネスモデルは、こうして創られた』(ダイヤモンド・ビジネス企画/著、ダイヤモンド社/刊)によれば、商品の寿命を永らえさせる上で重要なのは、ある事業の知名度が潜在的なユーザーにほぼ知れ渡ったとき、つまり成熟期において、どのような手を打つのかだといいます。
というのも、成熟期に効果的な策を講じることができれば、その事業は「第2の成長期」に入ることも可能だからです。そして、この本で取り上げられている化粧品メーカー「オルビス」はまさに、成熟期に効果的な策を打つことで「第二の成長期」を迎えることができた好例と言えるのです。では具体的に、どのような策を講じたのでしょうか。
■全ての商品を手作業で梱包
オルビスが生まれたのは1987年。通販を主として、10年後の1997年には売上高100億円、2007年には497億円と、順調に売り上げを伸ばしました。しかし、化粧品ビジネスの世界では、ブランド単位で見ると売上高400億円前後で壁にぶつかると言われており、オルビスもこの壁に直面することになります。2006年ごろから少しずつ営業利益が伸び悩み始めていたのです。
そこでオルビスは2010年、物流システムをリニューアルします。同社は元々、「物流はサービスの要になる」という方針のもと、他社に先駆けて、送料無料、全国二日以内配送、時間帯指定などの取り組みを行なっていました。そしてこのタイミングで、顧客満足度向上のため、さらなる充実をはかったのです。
そこで講じた策のひとつが、「商品の梱包作業に機械を使わない」というもの。機械を使った自動梱包は、早くてコストを抑えられる反面、商品の大きさに対して箱が大きくなりすぎてしまい、顧客にとっては手詰めに比べると大雑把な印象を受けるという理由からでした。
これを廃止して梱包を手作業にした結果、顧客からは「荷物を開けたときに、きれいに、おもちゃ箱みたいに詰められていて、『私のためのスペシャルセット』のように感じた」等、好意的なメッセージが届いたといいます。
オルビスは元々、「通販でありながら親身であたたかみのある接客」を重視し、社内ではそれを「人肌感」と呼んで、顧客とのコミュニケーションにおけるキーワードとしていました。
そして、これは、同社コールセンターにおいて「一通話あたりの上限時間を設けない」というルールが生まれることにも繋がり、一通話に二時間半割くケースもあるほど、顧客対応の品質にこだわってきたという経緯がありました。このような取り組みの蓄積があったからこそ、「物流面でも、人肌感を出せないか」という発想が出てきたというわけです。
このような物流面での改革以外にも、人気グラフィックデザイナーの佐藤卓氏とともにデザイン面からのブランド再構築や、情報システムの切り替えを行なったことで、オルビスは、2010年時点では61億円だった営業利益を、2014年には107億円までに伸ばすことに成功しました(2010年の売上高は493億円、2014年は523億円)。
これら複数の改革策を講じることによって第二の成長期を迎えることができたオルビスですが、実は、大手化粧品メーカーであるポーラの新規事業としてスタートしたことをご存知ですか? 本書には、当時すでに国内屈指の化粧品ブランドであったポーラが、なぜ「ポーラ」というブランドの知名度を一切使わずに株式会社オルビスを立ち上げたのかも書かれています。
本書を読むと、化粧品ブランドとしてのオルビスの事業がどのように生まれ、どのように成長し続けてきたのか、その理由の一端をうかがい知ることができます。多くのビジネスパーソンにとって、参考になる内容と言えるのではないでしょうか。
(新刊JP編集部)
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