2015年も残り少なくなったが、今年はフランスで起きた同時多発テロやシャルリエブド襲撃事件、レバノンの爆弾テロなど、テロリズムの脅威が改めて注目される年となった。
その中心に「IS」や「アルカイダ」といったイスラム過激派組織がいるのはまちがいないが、日本人は一般的に過激派以前にイスラム教やイスラム文化になじみが薄く、イスラム過激派の行動背景がよくわからないという人も多いだろう。
その結果、単に「テロは恐ろしい」という印象だけが残り、結果としてイスラム教やイスラム教徒そのものにまで恐怖感を持ってしまうようだと、あらぬトラブルを抱えかねない。
ここでは『イスラム敵の論理味方の理由―これからどうなる73の問題』(六辻彰二/著、さくら舎/刊)から、「イスラム過激派」について、私たちが感じがちな問いに答えていこう。
■イスラム過激派はいつからアメリカと敵対しているのか?
特に知識のない人でも、ISについての報道を見ていて、彼らが欧米諸国、特にアメリカを敵視していることは何となくわかるはずだ。
イスラム過激派とされる組織は世界に複数あるが、アメリカへの強烈な敵意は共通している。それはアルカイダもそうだし、「国家建設」を第一目標に置くISにしても同じだ。
彼らのアメリカへの憎悪の強烈さを見ると、イスラム社会とアメリカの間には相当に根深い対立の歴史があるように思えるが、実際はそうでもない。
アメリカがイスラム社会と本格的に接触したのは、20世紀初頭と比較的新しく、しかも当初は必ずしも両者は対立していなかった。これは、古くからイスラム圏との接触や衝突を繰り返してきたヨーロッパとは対照的だ。
転機となったのは第二次世界大戦後の「イスラエル建国」だ。大戦中、ホロコーストを逃れたユダヤ人を多く受け入れたアメリカでは、大戦後に「ユダヤ人国家の建設」が関心を呼んだ。この背景のもと、アメリカは1947年の国連パレスチナ分割決議を主導し、イスラエル誕生を決定的なものにした。これが、ユダヤ人と対立するイスラム社会がアメリカを「敵」とみなすきっかけになった。この時に生まれた反米感情が、その後のアメリカ政権の親ユダヤ的な外交方針もあって今に受け継がれているのだ。
■イスラム過激派にとって日本は「敵」か?
ただ、日本人として最も気になるのは、やはりテロに関する自国の危険度合いだろう。
特に今年は、安保法案成立のタイミングで「法案成立によって日本もテロの標的になるか?」といった議論が噴出し、「確実に危険度は増す」「いや、日本はイスラム過激派からしたら攻撃する優先順位は低い」などさまざまな意見が出た。
本書によると、彼らの思考パターンは一般的に「味方以外は全員敵」という二元論に基づいているという。ISを例に出すならば、欧米諸国のように明確に敵対している国だけでなく、自分たちに協調していない国もまた「敵」だということだ。だとすると、ISに限らずイスラム過激派の標的から日本が外れる理由はまったくない。
そもそも、日本は軍事行動にこそ参加していないが、「対テロ戦争」において中立ではなく、アメリカ寄りの立場を取っている。ISが成長した大きな要因として挙げられる「イラク戦争」にしても、日本はアメリカと足並みを揃える形で支持する姿勢を示した。当時、アルカイダの指導者だったオサマ・ビン・ラディンはイラク戦争を支持した国への報復を宣言し、その対象として日本も名指しされた。
イスラム圏の人々の日本への感情は良好だという声もあるが、イスラム過激派に限っていえば、日本も日本人も明らかに敵なのだ。
『イスラム敵の論理味方の理由―これからどうなる73の問題』には、イスラムの信仰や歴史、中東情勢、そしてイスラム過激派など、今世界の大きな潮流となっている「イスラム」について、予備知識がなくても理解できるようシンプルに解説されている。
イスラム過激派への対処は今や全世界的な問題であり、日本にとっても決して他人事ではない。また、過激派とは別にイスラム教徒自体の数も増え続けているため、今後ビジネスをはじめ実生活の部分で、彼らの文化や信仰を知る必要性は増していくはずだ。
これまで日本になじみがなかったイスラム文化だが、不安定な中東情勢を知るために、テロ関連情報を正しく理解するために、そして彼らと無用な衝突をすることなく共存していくために役に立つ本だ。
(新刊JP編集部)
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