「キャリアの8割は偶然で決まる」。キャリア研究の中にはこんな考え方があるという。そして、この考え方を提唱したスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授は、予期せぬ偶然が起きた時、どれだけ心の準備をしているかどうかが大事だと述べる。
『ラブ、ピース&カンパニー これからの仕事50の視点』(日経BP社/刊)の著者である楠本修二郎さんの人生は、まさに予期せぬことの連続だった。
大学を卒業後、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)に入社するも、その2か月後にリクルート事件が発覚、当時の池田友之社長の秘書として3年間奔走する。そこから、大前研一事務所などを経て37歳で独立し、カフェ・カンパニーを設立するものの、41歳のときに癌が見つかり、手術することになってしまう。
それでも楠本さんは立ち上がる。そして51歳となった今では、「WIRED CAFE」をはじめとしたカフェブランドを全国で88店舗展開している、カフェ業界のカリスマ的存在だ。
しかし、なぜ楠本さんはカフェをつくる事業を展開しているのだろうか? そこには若い頃に偶然遭遇してきた体験が基盤になっているという。
■若い頃の旅が楠本さんの人生を築き上げる
楠本さんは大学生のころから数多くの国や地域を旅してきた。その旅先でさまざまな「カフェ的なもの」に出会ったことが、現在の仕事につながっているという。
20歳のときに旅したシンガポールでは、地元の住民やビジネスマン、観光客がないまぜに集うオープンテラスに出会い、アジアの屋台街は、カルチャーを育む「カフェ」なのだと気づく。
また、その4年後に行ったフィリピンでは、30人の兄弟たちとその家族を支える男性の自宅に招かれ、7歳の男の子がヤシの木に登り、12歳の女の子が裏の畑で牛の乳を搾って作ってくれたココナッツミルクジュースを飲ませてもらう経験をする。その美味しかったその味以上に、彼らが住む平屋に流れていた優しくて柔らかい空気に「カフェ的なもの」を感じたそうだ。
楠本さんにとって旅は「自分の原風景に新たな見方を与えてくれるもの」。そしてその旅先には「カフェ的なもの」があり、それが楠本さんを魅了したのだ。
ではなぜ、彼は「カフェ」に惹かれるのだろうか。それは以下のような魅力を「カフェ」が持っているからだと述べる。
・価値観や趣味性に感じ入ることで人が集まり、「共感」が生まれる場。
・「共感」を相手と分かち合いたくなり「共有」が起こる場。
・共有だけでなく、その場にいる者同士が「共振」し、新しいアクションが起こる場
「カフェ」は共感、共有、共振が生まれる場――。こうした考えを背景に、「人と人がつながる場所」との想いから「WIRED CAFE」を作ったのだと明かされている。
訪れた人たちの生き方に大なり小なり影響を与える力がある。もともとは旅好きだった楠本さんは、その力に引き寄せられるように「カフェをつくる」という生き方を選択したのだった。
旅は偶然のめぐり逢いの連続だ。その偶然を通して「カフェ的なもの」に出会い、そしてさまざまなキャリアを経て、自分の生業である「カフェをつくる」という仕事へ進んだ楠本さん。だからこそ、その仕事哲学はとてもクリエイティブで、魅力的なのだ。
他にも、本書のなかで楠本さんは「うちの会社で“自分探し”は禁止」「会社はスジコ組織であるべき」「カフェにおける失敗パターン3カ条」など、自身の経験を踏まえ、そのユニークな人生観や仕事観を紹介している。
良い意味で生き方や働き方をめぐる固定観念を壊してくれる一冊だ。
(新刊JP編集部)
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