パリで起こったテロ事件をはじめ、世界各地でIS(イスラム国)によるテロ活動が活発化している。SNSでの宣戦布告や、人質オークションが注目を浴びるなど、インターネットが新たな戦場に数えられるといっても過言ではない。
私たちは情報戦のさなかにあり、そして、情報戦に勝たなければならないのだと、日々痛感させられる。
こうした「情報」を取り巻く世界の状況について、日本もすでにその渦中にあるとし、「情報」を軽視しがちな日本人に考えるきっかけを与える一冊の本がある。九島伸一著『情報』(幻冬舎/刊)がそれだ。
著者の九島氏は国連で30年の長きにわたり、データ・情報・知識に関わる仕事に従事してきた。いわば情報戦のダイナミクスを肌身で感じてきた「スペシャリスト」だ。
■情報戦で遅れをとる日本
本書ではその知見を生かし、国家間の情報戦争というマクロな視点から、個人の情報リテラシーというミクロな視点にいたるまで、さまざまな角度から『情報』について語っている。
たとえばもし、国内の主要大手銀行のデータセンターとバックアップセンターのシステムが同時に襲われ、すべてのデータが一瞬のうちに消し去られたとしら――。近未来小説のようだが、本書によれば現代の技術で実際に起こりうる話だという。すでにアメリカではシステムの中身だけを破壊する実験が成功しているという例を示しながら、こう示している。
「この技術は、戦争をまったく違うものにする。人を殺すのではなく、情報を消し去るのが目的になる。人道的ではあるが、敵の社会は完全に麻痺し、国家も社会も成り立たなくなる」(本文より)
もちろん、情報戦においてはメディアに潜む大衆操作も大きな問題の一つになる。本書は、日本はすでにこうした情報戦のさなかにあり、中国にすでに遅れをとっていると警鐘を鳴らす。その上で、国に対して、軍事予算を上回るような情報予算をつけること、および日本人ひとりひとりが不利益をかぶらないように「情報戦に勝つ努力をしていくのでなければ、国家がその役割を果たしたことにはならない」と述べている。
■氾濫する情報社会をどう生き抜いていくか
さらに、このようにさまざまな意図によって情報が氾濫する社会においては、個人が惑わされたり、騙されたりせずに情報を選び取る能力も重要になってくるという。本書では、情報の受け取り方についても指南をしている。
「文章の書き方が上手で、その論理の組み立てに説得力があれば、読む側は疑うことをしない。簡単にその文章を信じてしまう。その結果、惑わされ、騙される」(本文より)
「上手で説得力のある文章に接したら、鵜呑みにせず、気をつけたほうがいい」(本文より)
タイトルにある『情報』という言葉。その定義として、本書はマーク・ポラットによる「集められ、整理されたデータ」を採用している。この定義によれば、情報の次のステップが知識、すなわち「消化され理解された情報」である。
「教わったとおりにしていたら、いつまで経っても、情報リテラシーは身につかない。まずは、情報についてもっと知る」(本文より)
このように、本書はまさに、読んでいく中で情報が頭の中で知識として結実していく一冊である。600ページ超という大著だが、一つ一つの項目については、硬派な主張もあれば、ユーモアあふれるエピソードもある。これらは著者の実体験や豊富な知識にもとづいており、興味のあるテーマや気分次第で、気軽に読み進めていける。
ぜひ手にとって、「情報」について考えるきっかけにしてはいかがだろうか。
(新刊JP編集部)
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