帰宅ラッシュを迎える夕方、駅の改札にはICカードを読み取る「ピッ」という音が絶えず鳴り響く。通勤時に使われている「クレジット機能・電子マネー機能のついたICカード定期券」が私達の生活で浸透するようになったのはここ十年足らずの出来事だ。もはや私達の「生活インフラ」といっても過言ではないこのカード、実は金融についての知識を持たない鉄道マンたちの手によって、ゼロからつくられたものだった。
そのカードの開発、普及までの「軌跡」をつづっているのが、クレジットカード・電子マネー業界の第一人者である岩田昭男氏が執筆した『挑戦と逆転の切り札(カード)』(幻冬舎/刊)。10年間で取扱高400%アップ、今では会員数470万人を超える鉄道グループのクレジットカード「ビューカード」は、金融の素人である「カード事業部」のメンバーは数多の挫折やトラブルを乗り越えて今日まで走り続けてきた。
その苦闘の日々と、普及に至るまでの逆転のストーリーを、事実をもとに描いている。
大人になったら、祖父や父と同じ職業に就きたい。その思いで新卒入社した証券会社を退社し、鉄道マンとしての生活を送っていた藤田。電車の運転士になることを希望していた彼は突然「カード事業準備室」への転勤を命じられる。誰も勝手が分からない新しい部署からのゼロからのスタートである。
手本となるカード会社の指導のもと、債権回収と審査に関するマニュアル作り、そしてカード発行に邁進するが、藤田の心には大きなひっかかりがあった。同級生家族が借金苦に見舞われる姿を見ていたのだ。
そんな苦しい記憶がよみがえり、債権回収業務を含むカード事業を行う理由が分からず悩んでいた藤田。そんな彼を変えるきっかけとなったのが、「お客さまの立場に立って考えられるからこそ、その体験を生かし、新しいアプローチ方法を見出すことが出来る」「債権回収に限らず、もっと大きな視野で物事を考えろ」という上司・加藤の言葉だった。
「顧客の立場になり、顧客の生活を考える」仕事のスタイルを探す。そのヒントは、鉄道事業にもカード事業にもつながり、その後の藤田の、また「カード事業部」の業務の中にも根付いていく。
藤田たちは、当初の計画通りに会員が集まらないときも、自分たちが一生懸命やりさえすれば周りがついてくるという思考ではなく、常に顧客第一の活動を行った。それが人々の心を動かすことにつながり、カードの取扱高を大きく伸ばしていった。
しかし、カード発行後も「国際ブランド」との提携、システム機能の遅れによる利用者からの苦情、不正利用問題と次々と難題が立ちはだかる。実績も無く、何をしているかも分からないなどと社内でさえ理解を得がたい中でも常に顧客の立場に立ち、カードのステップアップを目指して問題を一つずつ解決していく。そして、辿り着いた逆転の一手が「Suica」とのコラボレーションだった。
「生活に革命を起こした」ビューカード。その言葉の華やかさの裏には数々のドラマ、苦悩、泥臭い業務が積み上げられている。逆転をもたらすものは、結局、愚直に目の前の仕事に取り組むことであり、それはビジネスマンならばきっと誰もが経験していることだろう。
自らに課された責任を受け止め、真剣に向き合ったことのあるビジネスパーソンであれば、胸に熱い想いがこみ上げてくる一冊だ。
(新刊JP編集部)
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