もし明日、親が突然倒れて、要介護状態になってしまったら。家族として、どのような手続きを踏んで親をサポートすればいいのか。いまやテレビなどで介護関連のニュースを目にすることは珍しくとも何ともないが、いざ自分が「介護をする」という状況に立たされたときに何をすればいいのか分からないという人は少なくないはずだ。
『介護で会社を辞める前に読む本 介護はリハビリで9割変わる』(ダイヤモンド社/刊)の著者である山下哲司氏は全国140カ所でデイサービス施設を運営している。
山下氏が現場で見てきた実例を通して、介護者を抱える家族がどのようなことに気を配り、どのような支援ができるのかについて話をうかがった。今回はその後編である。
――序盤ではリハビリ介護のメリットについてお話いただきましたが、デメリットはあるのでしょうか?
山下:デメリットらしいデメリットはないと思います。あえて挙げるとすれば、リハビリをがんばりすぎると、ケガをしてしまう危険性があるということぐらいでしょう。リハビリの効果が出始めて、立ちやすくなったり、歩きやすくなったり、座りやすくなると、つい嬉しくなって「もっともっと」とリハビリを張り切りすぎてしまうケースがあるのです。「身体が動くようになる」というのはそれだけ希望を生むものなのだと思います。
――リハビリ介護をするにせよ、できるだけ「手遅れ」にならないうちに早めに親の変化に気づきたいものです。どのような点に気を配ればよいでしょうか?
山下:気を配るべきポイントは2つあります。まず外出の量が減っていないかどうか。ひきもりになれば筋肉を動かす機会が減りますから、寝たきりになるリスクが増してしまう。以前に比べて外出量が減り始めたなと思ったら要注意です。
次に水分の摂取量。日本自立支援介護学会によれば、必要な水分量を摂取するようにしただけで、約70%の認知症の人の症状が改善されたという報告もあるほど水分摂取とは重要なのです。
にもかかわらず、高齢者は基本的に水分不足に陥りがちです。30代から50代だと、体内の60%程度は水分が占めているといわれていますが、65歳以上の高齢者はそれが平均的に50%程度にまで落ち込むといわれています。
たとえば体重50kgの高齢者の場合、その半分にあたる25kgが平均的な体内水分量ということになりますが、この水分量に対して1%から2%の水分が失われるだけで意識障害が起こるといわれています。
体重50kgの高齢者の場合、1%といったら、たったの250cc。コップ1杯程度の量。汗をかいてトイレへ行って水を飲むのを忘れたらすぐに失われてしまうような量ですよね。たったこれだけの水分が不足しただけで意識障害が起きてしまうのですから、本人がどれくらい水分をとっているかについて家族は注意を払うべきだと思います。
――意識障害を起こすと、たとえばどのような状態に陥るのでしょうか?
山下:お年寄りがテレビを見ながら、あるいは人の話を聞きながら居眠りをしている光景を見たことがあるかと思いますが、あれは単なる居眠りではなく水分不足が原因で意識障害を起こしている場合があります。
さらにいえば、水分が3%以上不足すると循環機能に影響が出ます。血液がドロドロになり血流が悪くなってしまうんです。脳梗塞や心筋梗塞は早朝に発症するケースが多いのですが、これも水分不足が原因といえます。よく「夜中トイレに立ちたくないから」と就寝前の水分摂取を控える方がいますが、これは逆に危険だということを知ってほしいですね。
――最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。
山下:この仕事に携わるなかで「親が要介護状態になったことを受け入れられない」ご家族を目にすることが少なくありません。受け入れられないがために「なんでこんなこともできないの!」と声を荒げてしまう。また介護というものの「終わりの見えなさ」がここに拍車をかけ、ご家族の方がますます追い詰められてしまう場合もあります。
そんな状況に突破口を見いだす意味でも、ぜひリハビリ介護という選択肢があることを知っていただきたい。介護の問題というのは往々にして「突然」降りかかってくるものです。そのときになって慌てないためにも、本書を通してリハビリ介護を含め、介護の現状を知っていただければうれしいです。
(了)
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