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戦後70年 反戦を貫いた孤高の男の生涯

 世界にはその業績や功績が高く評価され「偉人」と称えられる人がいる一方で、素晴らしい仕事をやり遂げたにもかかわらず、その足跡があまり知られていない人もいる。
 「高岡正明」という名前を聞いても、ほとんどの人は彼がどんな人間で、何を成し遂げたのかわからないだろう。 しかし、その功績は大きく、彼の開発した「どんな気候でも咲く桜」である「陽光」は今も世界で咲き誇っている。
 『陽光桜 非戦の誓いを桜に託した、知られざる偉人の物語』(高橋玄/著、集英社/刊)は、この「知られざる偉人・高岡正明」の実像に迫る。
 今回も、前回にひきつづき本書の著者であり、高岡の生涯を描いた映画『陽光桜-YOKO THE CHERRY BLOSSOM-』で監督・脚本を務める高橋玄さんにお話を聞き、高岡正明という人物の持つ魅力と信念がどのようなものだったのかを語っていただいた。

――どんな気候でも咲く桜「陽光」の誕生には、高岡さんの戦争体験が深くかかわっています。しかし、どんなに強い動機があったとしても、ビジネスと無関係な開発を30年も続けるのは並大抵ではありません。高岡さんにとって戦争の体験とはどのようなものだったのでしょうか。

高橋:戦争を経験された方々に共通するんだと思いますけど、それまでの死生観や価値観、それこそこの国のかたち、ルールが敗戦から一夜明けてまるきり変わってしまったわけですから、不条理そのものでしょう。高岡さんにとっては、むしろ敗戦後の日本に義憤を感じたのではないかと思います。日本が敗けた怒りではなく、つまり、こんなかたちの国になるなら、最初から戦争なんてしなくて良かったじゃないかという。特に彼が激しい怒りに似た自責の念を抱えたのは、自分自身は持病で兵役に失格したことで、戦地に行ったことがないという事情が大きいはずです。高岡さんを突き動かし続けた最大の動機とは、戦争は人類最大の罪だから根絶しなければならない、という彼の信念だと思います。その信念を彼に植え付けたものが戦争であったということが不条理なんです。

――本書を書いたり、映画を製作するにあたって、高岡さんの関係者の方々に取材をされたのではないかと思いますが、そういった活動を通してどんなことがわかってきましたか?

高橋:実は高岡正明さんの活動については遺族の方でも知らないことが多かった。仕事上の関係者の人々に聞いても、高岡さんの人生には、ある種の空白の期間というか謎のまま埋まらない部分が少なくない。彼は生まれてから亡くなるまで愛媛県の山間部に住み続けて、家族親戚に囲まれていたのと同時に、孤高の信念で自分だけの世界にも生きていた。それも「自分のため」にではなく。彼が自分の罪だと背負ったものを人に分かち合ってもらおうとは考えもしなかった。だから誰も知らない彼だけの空白の時間が生まれたんだろうと思います。

――映画『陽光桜-YOKO THE CHERRY BLOSSOM-』の方も完成したそうですね。この映画の見どころを教えていただければと思います。

高橋:戦争にまつわる実話の映画化では、重苦しいトーンが漂うドラマになりがちです。でも私は高岡正明さんの明るさを前面に出すことで、彼の内面にある信念を大げさではないかたちで描きたかった。だから、映画の前半はまるで家族コメディのような軽妙さです。そして後半から、彼がなぜ桜作りに生涯を掛けたのかという本当の意味と重さが「発見」されていくという構成です。主人公でもある高岡さんが亡くなった後にも驚きの実話が掘り起こされていくというストーリーは事実に基づいているのですが、エンターテインメントとして子供からお年寄りまで広く観てもらえる映画になっていると思います。

――今年は戦後70年の節目の年です。この本や映画を通じてどんなことを伝えたいとお考えですか?

高橋:「罪」とは何か? 私は今回のプロジェクトを通じて高岡正明さんに、ずっとそう問われていたようにも感じます。罪とは刑法上の犯罪のことだけではない、人間としての罪です。究極は戦争ですが、今の私たちの社会にも、表向きを虚飾で隠した「罪」がいくらでもあるのではないか。「戦後70年」というフレーズも、世の中的に伝えやすくなるから使って、71年目には忘れているというのでは無責任です。だから、この物語を本や映画として残す試みは、作者の私自身にとっても、読者や映画の観客の皆さんにとっても、「高岡正明という日本人を忘れない」、そして「平和を願う気持ちを持ち続ける」という意味があると思っています。

――最後になりますが、本書の読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。

高橋:これは過去の物語ではなく、今も続いている物語なのです。高岡正明さんが創造した陽光桜は、世界中に植えられています。本書をきっかけに陽光桜を実際に見て頂いて、読者の皆さんそれぞれの人生に新たな発見をして頂ければ光栄です。
(新刊JP編集部)

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