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現役医師が語る「がんもどき理論」何が問題か?

 “がんには「本物のがん」と「がんもどき」がある”
 “「本物のがん」は、早期発見してもすでに転移していて命を奪うから治療は無駄”
 “「がんもどき」は、転移する能力を持っていないため、放っておいても大丈夫”
 “つまり、がんは「放置」するのが一番よい”

 近藤誠医師による独自の「がんもどき理論」は各メディアで取り上げられ、今やすっかり「有名」になってしまったが、こと医学界からはその間違いを指摘する声が多い。
 その代表格ともいえるのが、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授・勝俣範之医師だ。
 腫瘍内科医とは即ち“がんの専門医”のこと。抗がん剤のスペシャリストであり、診断から治療、緩和ケアまで、がん患者さんをトータルに診療する医師である。がん=外科のイメージが根強い日本では、腫瘍内科史は欧米に30年もの遅れを取る。腫瘍内科医の数も欧米の14分の1と、まだまだ少ない。そんな中、勝俣氏は最前線のがん専門医として、このたび『医療否定本の嘘』(扶桑社/刊)を上梓。近藤誠氏の理論について、「どこが間違っているのか」を明確に示している。

■近藤誠氏の「がんもどき理論」は何が問題か?
 近藤氏の「がんもどき理論」だが、一切がデタラメというわけではないという。
 勝俣氏によると、近藤氏が「がんもどき」と呼ぶ種類のがん、つまり手術や抗がん剤治療をしなくても、まったく進行しないがんは確かに存在する。そして、治療をしても効果がないがん、つまり近藤氏が「本物のがん」と呼ぶ種類のがんもある。
 ここまではいいのだが、問題は両者を最初から見分けることはできない点だ。
 進行するかしないかわからないからこそ、放っておくことはできないと考えるのが普通だろう。これを軒並み「放置」してしまう近藤氏の理論は、間違っていると同時にひどく乱暴だといえる。

■延命・共存できるがんは増えている!
 また、あらゆるがんを「本物のがん」と「がんもどき」に二分している点も誤解を招きやすく「がんもどき理論」の大きな問題点となっている。
 実際には、がんには様々な種類や例外があり、近藤氏の理論のように単純に二分することはできない。
 「放置しても進行しないがん(がんもどき)」と「治療しても延命・共存できないがん(本物のがん)」の間には「放置すると進行していずれ死に至るが、積極的治療で治るがん」と「積極的治療を行っても治癒は難しいが、治療で延命・共存できるがん」が存在する。また、転移したのに自然治癒するがんも、ごくまれだがあるようだ。近藤氏の理論は、この中間層や例外を一切無視してしまっている。
 こうした事実を挙げたうえで、勝俣氏は抗がん剤の進歩によって延命・共存できるがんが増えてきていると述べる。「がんもどき理論」を鵜呑みにすることは、これらの医学的進歩の成果を享受できなくなるということなのだ。

 しかし、「がんもどき理論」やその他の医療行為そのものを否定する説が一定の支持を集めてしまう背景に、今の医療に対する不信感があることもまた忘れてはならない。
 勝俣氏は、「医師と患者のコミュニケーション不足」がこの不信感の土台になっているとして、医療界の側にも反省を促している。
 「患者の生活の質を優先させるか治療を優先させるか」「抗がん剤の有効性」など、がん治療には議論が重ねられているデリケートな部分が今もなお残る。それらについても持論が述べられている本書は、患者自身が望む治療を受けるために役立ってくれるだろう。
(新刊JP編集部)

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