いま、日本のあらゆる産業は成熟化しています。そして、それは行き詰まりとなって「イノベーションが必要だ」という煽りのような言葉を生み出しています。
特にアップルやグーグルのような分かりやすい「イノベーション」を起こす企業は、日本にはほとんどありません。それがこうした声につながる一つの要因なのでしょう。
しかし、日本の企業でもイノベーションを起こし、不景気の中で成長し続けている企業があります。では、そういった企業はどのようなことをしているのでしょうか?
この問いに対してさまざまな実例から答えてくれるのが<b><a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532197473/otonews-22" target="_blank">『異業種に学ぶビジネスモデル』</a></b>(山田英夫/著、日本経済新聞出版社/刊)です。
本書を読むと、異業種からビジネスモデルを移植し成功をおさめている企業が存在することに気づきます。ここでは具体的な企業を2社、ご紹介しましょう。
<b>■ブリヂストンはGEと同じ道を歩んでいる?</b>
「ブリヂストンといえば、何の会社?」と聞かれて、「タイヤをつくる会社」と答える方は多いでしょう。しかし、その答えは半分正解で、半分間違いです。
ブリヂストンは以前と変わらずタイヤ事業で収益をあげていますが、いま力を入れているのは「新品のタイヤをつくること」ではありません。同社が新たに力を入れ始めているのがリトレッド事業で、すり減ったタイヤの表面のゴム(トレッド)を貼りかえるというものです。
新品のタイヤ購入にくらべ、リトレッドのサービスを利用することは、顧客にどのようなメリットを与えるのでしょうか。整理してみましょう。
・顧客側のトータル・コストを削減できる
・ブリヂストンとトータルパッケージプラン(※1)を契約すれば、バスやトラック会社
にとっては、「タイヤのことを考えなくてすむ」
ポイントは2点目。まさにこの部分において、ブリヂストンのビジネスモデルは、GEのそれと重なるのです。
GEの場合、航空機エンジン事業において、売り切りビジネスからサービス事業へと舵を切り、顧客が「エンジンのことを考えなくてすむ」サービスを設計したことで成功をおさめています。その意味で、ブリヂストンのリトレッド事業は、同じ道を歩んでいるといえるのです。
ちなみに現在、ブリヂストンでは、メンテナンスとリトレッドを一貫した事業としており、利益率的にいって、新品タイヤ事業を上回る貢献をしている。
<b>■スルガ銀行が目指したのはホテル?</b>
従来、銀行は個人から預金を集め、それを法人に貸し出すことで利益を生みだしてきました。それに対して、まったく異なる形でビジネスを展開してきたのが、スルガ銀行です。スルガ銀行では、他行が敬遠していたターゲットに向けて高収益商品を開発、独自の路線を追求しています。
同社がとっている戦略は、個人サービス(リテール)に特化するというもの。これは1985年に40歳の若さで頭取に就任した岡野光喜氏が、2001年に「銀行からコンシェルジェへ」というビジョンを打ち出したことに端を発しています。
岡野氏がこのようなビジョンを掲げた理由は「より個人に近づき、生涯を通して金融の相談に乗れる存在を目指す」というものでした。これにより、スルガ銀行は、ホテルのコンシェルジュのごとく、ニッチな消費者ニーズにも対応する銀行へと変わることになったのです。
実際、同社のサービスはニッチ・セグメントのニーズをとらえている点に特徴があります。その最たるものが「銀行員向けカードローン」です。これは他行の銀行員を融資対象にしたサービスで、「銀行員は、自行からローンを借りると記録が残ってしまうので避けたい。でも消費者金融から借りるなんてもってのほか」という顧客心理を見事にとらえたものでした。
本書では他にも、楽天バスサービス、コマツ、星野リゾートなど5社のケースを紹介しているだけでなく、「異業種のビジネスモデルを見る視点」「ビジネスモデル変革の課題」と、フレームワークの解説にも多くのページが割かれています。
ビジネスモデルについて、理論と実践をバランスよく学びたい読者には参考となる事例が豊富な一冊といえるはずです。
(新刊JP編集部)
※1タイヤ費用・工賃+タイヤメンテナンスをブリヂストン全社、事業所単位で一括受託するもの。タイヤの所有権はブリヂストンにある場合が多く、顧客は毎月一定額を払う。
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