イラクとシリアで反米・反イスラムシーア派闘争を続ける「イスラム国」への警戒感が日増しに高まっている。
人質となった2人の日本人の安否は未だわからず、日本国内はいまだ緊張に包まれたままだが、ここ数日の過熱報道や昨年末からの関連書籍の相次ぐ発売もあって、少しずつだが「イスラム国」の実像がわかり始めてきた感がある。
これまでに出た情報をもとに彼らを特徴づけるとすると
・「アルカイダ」など多くのイスラム過激派が「反米」を前面に押し出すのに対して、「イスラム国」の最終目標はあくまでも「カリフ制国家の設立」であること。
・イラク・シリアの政府軍だけでなく、それぞれの反政府勢力とも対立していること。
・欧米だけでなく、同じムスリムのシーア派も排除しようとしていること。
といったところだろう。
しかし、現在イスラム国の最高指導者とされるアブー・バクル・アル=バグダーディーについては、表舞台に出てくることがほとんどないこともあり、明らかになっていない。
この謎に包まれたテロリストの人物像について、イスラム国の出自と戦略を解説した『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』(ロレッタ・ナポリオーニ/著、村井章子/訳、池上彰/解説、文藝春秋/刊)、『イスラム国の正体』(黒井文太郎/著、ベストセラーズ/刊)、『「イスラーム国」の脅威とイラク』(吉岡明子、山尾大/編、岩波書店/刊)ら関連書籍を読むと、次のようなキャリアがわかってくる。
■聖職者から過激派へ
2014年6月にイスラーム国の建国と「カリフ」の即位を宣言し、現在イスラム国の最高指導者とされるアブー・バクル・アル=バグダーディーは、1971年生まれのイラク人だとされ、イラーキー大学でクルアーンやイスラーム法学を研究、イスラーム神学の学位を取っている。高等教育を受けた一種の「エリート」という言い方もできるだろう。
卒業後はイラク・サーマッラーのモスクの聖職者になったが、イラク戦争後にイラク全土で起こった反米運動に乗じる形で反米活動にのめり込んでいったようだ。
2003年に、現在のイスラム国のルーツである「タウヒード・ジハード団」に加わると、外国人義勇兵をイラクに密入国させる任務についたのちに、シリア国境の町、ラワの町長となったバグダーディー。しかし、シャリアーに基づく法廷で自ら裁きを行い、アメリカ主導の有志連合軍に手を貸した者を公開処刑するなど、その残虐さで知られるようになっていく。
そして「タウヒード・ジハード団」から「イラク・アルカイダ」と改名(2004年10月)、さらに他のスンニ派過激派と合併した「イラク・イスラム国」(2006年10月)ができる過程で存在感を増し、初代指導者のオマル・バグダディが2010年に米軍の攻撃で死亡すると、そのままイラク・イスラム国の指導者となった。以降、シリア内戦が起こると「イラクとシャーム(レバント)のイスラム国」と名前を変えて介入し、義勇兵としてやってきた外国人兵士をリクルーティングすることで兵力を増強することで勢力を拡大、現在使われている「イスラム国」と更なる改名を経ての「カリフ宣言」までの流れはすでに多くの人が知るところだろう。
しかし、バグダーディーについては、実際に組織内で実権を持っているのは側近たちであるという説、2005年に米軍に逮捕・拘束されていた時の彼は「敵意に満ちた過激なスンニ派にはとても見えなかった」という説もあり、今のところは情報が乏しい上に錯綜しているといっていい。
バグダーディー率いる「イスラム国」の脅威は、日本を含めた世界のあらゆる国にとって「他人事」ではなくなってきている。彼らを国家として承認することは論外だとしても、欧米中心の世界が転換点に差し掛かってきていることだけはまちがいないだろう。
(新刊JP編集部)
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