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経済破綻はなぜ起こったか?(4)デトロイト編

 国家や自治体の財政が破綻するというのは、いかにも大ごとで、深刻な事態のように思える。
 破綻によって行政サービスがストップしてしまえば、ゴミの回収や交通機関の運行などへの影響は避けられず、銀行預金が封鎖される可能性もある。その地で暮らす市民はさぞかし不安で、暗い気持ちになることだろう。
 ただ、財政が破綻したおかげで、市民が「安心した」という感想を持つ珍しいケースもある。 
 『世界はすでに破綻しているのか?』(高城剛/著、集英社/刊)によると、2013年に、日本円にして1兆8000億円という途方もない負債を抱えて財政破綻したアメリカ・デトロイトがそのケースにあたるという。

■20年かけてゆっくり死んだ街
 よく知られているように、デトロイトといえば「自動車の街」。
 1960年代のデトロイトは、モータライゼーションの中心地として、“黄金都市”と呼ばれるほどの、全米屈指の大都市だった。
 これほどの都市が財政破綻するとは、当時誰も想像していなかっただろう。しかし、破滅へと至る最初の兆候はデトロイトが全盛期だった頃、すでに表れていたようだ。

 1967年7月、デトロイト市の西側にあった無免許の酒場に警察の手入れがあり、店にいた客(ほとんどが黒人だった)やオーナーと対決、死者43人、負傷者1189人という大規模な暴動に発展するという事件があった。
 この事件をきっかけに、デトロイトでは黒人と白人が社会的に対立するという構図が生まれ、黒人たちに自宅を襲撃されたり、新たな暴動が発生するのを恐れた白人は、次々と市の中心部から郊外に移り住むようになったという。
 
 この住民の大移動によって税収が激減し、街中には黒人貧困層だけが残されたデトロイトは、治安が悪化し、それがさらに人口流出に拍車をかけるという悪循環に陥ってしまう。この悪循環によって、デトロイトはその後およそ20年もの時間をかけて、ゆっくりと死んでいくことになる。最盛期で185万人いた市の人口は、現在68万人まで減ってしまっている。
 
■車がない失業者は面接にも行けない
 また、この街がいびつな形で発展してきたことが、その後の衰退に拍車をかけることとなった。
 GM、フォード、クライスラーの自動車メーカー「ビッグ3」は、デトロイトを「夢のある自動車の街」として印象づけるために、古くからロビー活動を行ってきた。
 象徴的なのが、デトロイト市民の生活スタイルを車中心にすべく、鉄道やバスといった既存の公共交通機関を潰しにかかったことである。
 「車中心の生活スタイル」は、言い換えれば「車がないとどこにも行けない生活スタイル」ということだ。これは、市内に残された車を買えない貧困層は、移動すらままならないことを意味している。
 現在、少しずつ財政破綻から復興しつつあるデトロイトだが、失業率は依然18%にものぼる。失業者が仕事を探すにも車がないために面接地に行けないという現状はまだ解消されてはいないようだ。

 人口減少が治安悪化を招き、治安悪化によって更に人口が減るという悲惨な20年を経験した住人の1人は、高城氏の取材に対して「破産宣言してくれたおかげで楽になったと誰もが思っている」と語ったという。自ら「降参」を宣言しなければ、誰の助けも受けられない。財政破綻がはっきりしたおかげでようやく援助が受けられると安堵する気持ちは、デトロイト市民の本音なのだろう。

 日本では“ハイパーメディアクリエイター”としてお馴染みの高城氏だが、若い頃から海外を飛び回る生活を続け、今回取り上げたデトロイトをはじめ、数々の財政破綻した国、地域を歩いてきた。
 外から見るのではわからない、現場の雰囲気を伝えるという意味で、同氏が体験した経済危機、財政破綻の事例がつづられた本書は貴重。どんな理由で、何がきっかけとなって国家や地域が窮地に陥るのか。日本に当てはめて読んでみてもおもしろい。
(新刊JP編集部)

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