■3つの基礎的思考力のバランスはとれているか?
連載2回目の今回は、誰にでも意味のある基礎的な思考力として、どんなことを考えればいいかという、思考力の内容について話を進めてみたい。大きく3つの方向性に分けてみる。「広げる・まとめる・確かめる(深める)」である。
簡単に買い物の例で考えてみよう。家の洗濯機が壊れて新しいものを買いたいとする。
どんな機種を買ったらいいか、選択肢を作るのには3段階のステップが必要だ。まず、最近の洗濯機について情報を集めたり友人の意見を聞いたりして、機種そのものや関連することについて、なるべく考えを「広げる」。場合によっては、洗濯乾燥機も検討に加えたり中古品など、答えを探す範囲を広げることもある。
次いで、決定に向けて候補の機種を絞り込む。これが「まとめる」である。その中間ステップとして予算やサイズなど必要な条件をまとめることもあり得る。
最終的に1~2候補に絞り込まれたとして、家族の洗濯物の量に対応できるか、スペースに収まるかなどを検討するのが「確かめる」段階だ。往々にしてこの段階で問題への理解が「深まる」ことになる。せっかく時間をかけて考えたのだから、あまり考えなかったより良い案ができたのかも確かめたいところだ。
■自由に考えられるようになるには頭を「動く」状態にしておく
実際には大小の3つの力を組み合わせて総合的に考えなくてはならないことが多い。洗濯機の選択肢を広げる前に納期やコストなど必要な条件をまとめたり、1つの候補機種を決めてから、それでいいのか確認する過程の中で、どこで買うのか店やオンライン販売などについて広げたりまとめたりすることもあり得る。使う順序もさまざまだし、入れ子構造になったり、複線化することもあるかも知れない。球技に例えると、ボールをもらってからシュートやアタックなど最後の動作までの中で多くの筋肉の連携が必要だ。ある筋肉が何回どのように動いたのか意識することはまずないが、それでも脚力が不足だとか、下半身の柔軟性が足りないとかの傾向は分かるので、課題を持って鍛えることは可能である。特に、1~2秒で終わるサーブやシュートなど、独立性の高いまとまった動作の中では、各筋肉の重要性がよりはっきり確認できる。手と足が上手く動いても、体幹がそうでないと十分生かせない。これと同じことが思考の3つの力についてもいえる。
■数十の考え方に親しみ、数個を自分のものにする
『思考を広げる まとめる 深める技術』(中経出版/刊)では、この3つの力それぞれについて、約30の基本的な方法を選んで説明している。これらは決して新しいものでもオリジナルなものでもない。100年前、1000年前、あるいは100年後に誰がどの言語で書いていてもおかしくない内容である。よく言えば「流行り」ではない。人間の頭の働きとしてごく当たり前に出てくる方法だと考えられる。ただ、最近即効性を求める風潮の中で光が当たらなくなっている気はする。
さらに、蛇足かも知れないが、余裕のない世の中で「まとめる」に関心が集まっているように感じられる。アウトプット重視ということだ。しかし、当たり前だったり正しくもないことをいくらきれいにまとめても仕方がない。バランスが重要だというのは大前提だが、あえて長期的に力を伸ばすには、まず「広げる」力を伸ばすことが、大きな発展に繋がると感じている。
ところで、「広げる」の中には8つの項目があるが、これらを全て使いこなす必要はない。
8つについて理解はした方がいいかも知れないが、2~3の方法に慣れて、何を考える際にも自然に適用できれば十分効果があるはずだ。1~2でもいいが、考えるテーマのタイプによって方法論の相性が悪く壁を越えにくいことがあるかも知れない。
さて、「広げる」「まとめる」「深める(確かめる)」の3つを、弱いところを意識して強化したり得意なものを伸ばしたり、いずれにせよバランスをもって鍛えていくことが必要である。「広げる力が強くてもまとめる力が弱い」などバランスが悪いとせっかく強い部分も生かせない。では具体的にどう鍛えるのか、また次回に話していくことにしよう。
(著者/太田薫正)
関連記事
・
「ロジカル・シンキング」が現場で使えない理由(太田薫正連載第一回)・
ポイントは4つ「説得力のある意見」の作り方・
成功できない「凡人」にありがちな3つの思考・
こんな人は採用されにくい 3つの理由ビジネスで使える 思考の強化法