社会のニーズや流行に合わせながら、イノベーションを起こし続けていける企業があります。アップルやグーグル、日本ならば無印良品もそうでしょう。では、なぜ、こうした企業たちはイノベーションを起こし続けられるのでしょうか。
その秘密は「コンセプト」にあると言うのが、ブランド・コンサルタントでクリエイティブ・ディレクターとしても活躍している江上隆夫さんです。
江上さんの著書『無印良品の「あれ」は決して安くないのに なぜ飛ぶように売れるのか?』(SBクリエイティブ/刊)は世界のブランド作りの根幹である「コンセプト」について、その概念から作り方、使い方までを、これまでにないほど分かりやすく丁寧に解説している一冊です。
新刊JPでは本書について、そして「コンセプト」の作り方について江上さんのお話をうかがってきました。今回は後編です!
■衝撃的だった「ウォークマンの登場」
――最近の企業や商品でコンセプトをうまく使うことができていると思ったものはありますか?
江上:そうですね、意外と小さな企業に多いように思います。彼らは「コンセプト」についてはおそらく意識していないのでしょうけど、きちんとコンセプト作りができている。例えば「らでぃっしゅぼーや」という有機栽培や無添加食品の宅配サービスをしている会社ですね。ここはNTTドコモの子会社なのですが、とても上手にコンセプトを使っています。非常にブレにくいんですね、コンセプトをしっかりと使えていると。でも、そのコンセプトを表に出さない企業も多いんです。
――その企業の中の人たちも、自分たちがコンセプトを作っているということに気づいていないからですか?
江上:そういう社風やカルチャーであるという側面が強いと思いますね。コンセプトを作って、使っているけれど、それほど表立って出さない企業も多いです。
――この本の中で取り上げられていたアップルのiPodと、ソニーのウォークマンの事例は大変分かりやすかったです。
江上:最初にウォークマンが出てきたのが1979年くらいですが、僕は非常に衝撃を受けたんですよ。それまでは録音機能があるのが当たり前で、聴くだけのプレーヤーなんて市場になかったんですよ。でも、借りてテープを聴いてみてビックリ。当時の常識としては有り得ないくらい音質が良かったんです。しかも、その音質の良さと、その音質で自分の好きな音楽を持ち歩けるという体験を一度してしまうと、もう以前の環境に戻れなくなってしまう。
iPodもすごいけれど、個人的にはウォークマンの方が革新的だったと思います。音楽を外に持ち出すというコンセプトは、その後に続く携帯音楽プレーヤーの先駆けになったわけですから。その前って、大きなラジカセを肩で担いで外に持ち出していたわけですからね。単1電池を10個くらい使って。
――iPodがすごい部分の一つはデジタル化と曲数の拡大ですね。
江上:iPodは、iTunesやアップルストアと合わせて、その中で全て出来てしまうという仕組みを作ったことがすごいですね。もちろんiPhoneも。アップルのすごさは、既存の技術を組み合わせて、イノベーションを起こすことです。ユーザーにとって素晴らしいものを作るというスティーブ・ジョブズの哲学なのでしょうけど、それを徹底してやっているように思います。
――本書の中のトヨタのレクサスの事例の部分で、トヨタの自動車づくりがあれほど真似され、研究されてもなかなか追いつかれないのは見えない強みがあるからだと書かれていましたが、そういう強みは大切ですよね。
江上:見えない強みは、社風やカルチャーによって生まれます。それは制度化することによって作りだすことが可能です。以前聞いた話で印象的だったのは、アメリカのとある企業では、仕事で失敗するとペナルティボックスに入れられるのだそうです。しかし、昇進する人は一度ペナルティボックスに入れられた経験がある人じゃないとダメなんだそうです(笑) つまり、チャレンジをさせる風土を作って、企業を活性化させているんです。
――日本では逆ですよね。
江上:そうですよね。ペナルティボックスに入れられたら、逆に昇進できなくなってしまう企業が多すぎる。笑えるほど、そういう企業が多い。
――そうした社風やカルチャーが見えない強みになって、コンセプト作りにつながるのですね。では、コンセプト作りは、いわゆる自分たちのことをよく知ることからスタートすると考えられますね。
江上:すごく大事なことですね。インタビューで経営者や企業のことを掘り下げていくと、見えないカルチャーが出てくるものです。
だからブランド作りのお手伝いをすると、どうしてもクリエイター的というよりコンサルタント的になってしまうんですよ。オーダーメイドの服を作るのと一緒で、相手を知らなければブランドもコンセプトも作ることができませんから。
――ブランド・コンサルタントとして企業のお手伝いをする中で、何か変化みたいなものは感じますか?
江上:企業自体が公共的な存在だという価値観が前面に出てきているように思います。儲かれば良いではなく、どれだけ社会に寄与できているかを意識する企業が増えてきました。
――もしよろしければ、本書の他にコンセプト作りに役立つ本をご紹介いただけますか?
江上:この本を書く上でとても役立ったのが『失敗の本質』と『「超」入門 失敗の本質』です。『失敗の本質』は、いわゆる名著で、日本軍がどうして戦争で負けてしまったのかということを研究しているのですが、型の考え方、コンセプトの考え方をまとめるのに非常に参考になりました。また、あとがきの部分で今の日本の進路に対して熱く語っていますけれど(笑)そのフックになったのも、この2冊ですね。
『失敗の本質』の著者の一人の野中郁次郎さんは世界的な経営学者としても活躍されていますが、経営やマーケティングと戦争は不思議なことに相通じるものがあります。たぶん、そういう意味で立ったのかもしれません。
――確かに孫子の『兵法』なんかも、経営者の方々から読まれていますよね。
江上:読んでいますよね。人事の要締を書いた『貞観政要』などは経営者の参考になると言われています。
――では、江上さんがこれまでに読んできた本で特に影響を受けた作品はなんですか?
江上:うーん、これは難しいですね…(笑)本よりは雑誌に強く影響を受けています。『宝島』という雑誌で、今でもありますけど、僕が影響を受けた1974年、75年頃は今とは内容が全く違います。当時、北山耕平さんという日本にヒッピー文化を紹介した人が編集長をされていて、その直前は植草甚一さんというジャズや欧米文学に詳しい若者に人気の方が編集顧問をされていました。当時僕は高校生でしたが、やはり10代の頃に熱心に読んだ雑誌には考え方も含め相当影響されていますね。
――本書をどのような方に読んで欲しいとお考えですか?
江上:20代、30代くらいの若いビジネスパーソンに読んでほしいです。これから日本を作っていく人たちに、コンセプト作りができるようになってほしいですね。ガンガン挑戦して、日本をかき回してください。
――では、このインタビューの読者の皆さまにメッセージをお願いします。
江上:この本は、専門職以外の人でもコンセプトを作れる、コンセプトを使えるようになるということを意識して書きました。もし手に取っていただいたら、ぜひ活用して下さい。読んで終わりではなく、使って活きてくる本なので(笑)
(了)
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