社会人として、どんな形であれビジネスと関わる以上、会計や数字について勉強することは避けて通れません。
しかし、何年も働いている人でも「数字は苦手」「会計は難しい」と苦手意識を持っている人は多いもの。そんな人は今さら難しい参考書を買う気にはならないでしょう。
しかし、物語なら話は別。
『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』(日本実業出版社/刊)は、公認会計士の眞山徳人さんが、数字が苦手な人に向けて、ビジネスに必要な「数字」や「計算」を教えてくれる一冊。今回はその眞山さんに、ビジネスマンが会計を身につけるメリットとそのポイントを伺いました。その後編をお送りします。
―会計や簿記を勉強する時に挫折しがちなポイントがありましたら教えていただければと思います。
眞山:会計という学問を整理すると、まず財務諸表というものがあって、その財務諸表を作る技術が「簿記」で、できあがった財務諸表を読み、活用する技術が「財務分析」です。
特に「簿記」に言えることですが、財務諸表を作る時に必要なのが、一つひとつの取引をどう仕訳して勘定環境を変えていくかというスキルです。それを覚えていくという地味な作業が生まれるわけですが、これに耐えられなくなって挫折するというのはよくあるパターンです。
「財務分析」の方は全体像をイメージしながら比較的楽しくやれるはずなのですが、やはり基礎を作っていく過程で細かい計算方法や略号の意味などを覚えなければなりません。そういう地道な作業が必要なところでどうしても挫折しやすくなりますね。
―会計士になってしばらくは「監査」をされていたという眞山さんですが、たとえばニュースなどでよく見る「粉飾決算」のような事例にぶつかったことはありますか?
眞山:「それは今まではこういう処理をしていたのに、今回だけ違うやり方をするのはおかしいでしょう」という事例には、この仕事をしているとやはりぶつかります。
ただ、これを「粉飾」と言い切って良いかは分かりません。一つの取引に関して、少しでも外部からよく見える処理の仕方があるのなら、できることなら有利な方法をとりたいというのは、会社としては仕方のないところではあるので。だからこそ、その線引きをしっかりするために私たちが監査をするわけです。
本当に悪質な粉飾の事例には、私個人は幸か不幸かぶつかっていません。だから、割と平和に監査をやってきたのかもしれませんね。
―監査時代の変わったエピソードがありましたら、教えていただければと思います。
眞山:企業の棚卸に監査の一環で会計士が立ち会うのですが、とある飲食店の監査でマイナス40℃の冷凍庫に入って、冷凍食品のカウントをした時は大変でした。
ものすごく厚いコートを着て、目出し帽をかぶって、ゆっくりそっと呼吸しながらカウントしていくという。
あとは、ある粉末を作る工場に行った時は、材料のタンクによじ登って目盛りを読んで、体積や重量がどれくらいかを計算したことがあります。クライアントの方も「そんなに奥のほうは見ないだろう」というような顔をしていたんですよ。それで逆に燃えてしまって「やってやろうじゃないか」と。まあ、おかげでスーツは真っ白になってしまいましたが(笑)。
―どんな部署だとしても、数字や会計の知識は大事だとされる理由はどんなところにあるのでしょうか。
眞山:「何のために働くか」というのは人それぞれ違うと思いますが、「会計」という観点で見た時、人材は何のためにいるのかというと、それは「利益をあげるため」ということになると思います。
では、利益をあげるために自分は何をすればいいかと考えると、自分の仕事の内容を理解するだけでは足りなくて、利益が出る仕組みを理解する必要があります。そうでないと、自分がどんなことをどうがんばれば、どのように儲けが出て利益になるということがわからない。そして、利益が出る仕組みを理解するための一番大事な枠組みが「会計」なんです。
―本書には、その「会計」の、最低限必要な部分が取り上げられているというわけですね。
眞山:本当にギリギリのところまで削って、これくらい知っていれば何とかなるかな、というところですね。
読んだ方がもうちょっと知りたい、もっと先に進んでみたいというモチベーションを感じるところまでがこの本の役割だと思っています。
―最後になりますが、読者の方々にメッセージをいただければと思います。
眞山:会計は難しい、ややこしい、経理じゃないから必要ないと考えているビジネスマンの方はすごく多くいらっしゃいますし、経営学部じゃないから縁がないと思っている学生も多いです。
でも、会計はたとえどんな仕事であれ、使えるようにしておくと物凄く便利なものです。もちろん専門家になるのは難しいですし、それなりの勉強が必要なのですが、いち社会人として役立てるレベルまで身につけるということであれば決して難しいことではありませんし、面白いと思えることもたくさんあるはずです。そういうところを、本書を通じて感じとっていただけたらいいなと思っています。
この本の内容は会計の「入口」の部分なので、気楽に楽しく読んでいただければうれしいですね。
(新刊JP編集部)
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