非正規雇用、失業といった雇用問題のニュースを目にすると、なんとなく「20代~40代で、学歴はあまり高くない男性」をイメージすることが多いのではないだろうか。
しかし、もちろん女性にも雇用問題は存在し、その実態は男性と比べると見えにくい。
『高学歴女子の貧困 女子は学歴で「幸せ」になれるか?』(大理奈穂子、栗田隆子、大野左紀子/著、水月昭道/監修、光文社/刊)は、「男/女」という性差にまつわる社会問題にアプローチし、当事者の本音や立場、女子をめぐる日本社会の暗黙の壁や制度上の問題点について解説する。
本書によれば、今特に問題になっているのが、大学院まで出て高度な専門知識を持つ女性が十分な報酬を得られず、ギリギリの生活を強いられていることだという。
■大学院を出ても月収20万。昇給なし。
高学歴女子をめぐる貧困の諸問題は、本人の努力とはかけ離れたところで起きている。本書では、2人の高学歴女子であり、かつ貧困の当事者の女性を紹介している。
そのうちの1人である大理奈穂子さんはお茶の水女子大学大学院を卒業しているが、正規雇用の仕事が得られなかったため、苦しい生活を送っている。
「あんた、本当なら今頃はいいお給料、もらえてたはずなのにねぇ」
お盆の帰省のとき、母の一言が大理さんの胸をチクリと刺す。38歳。職業は大学非常勤の英語講師。事実婚の夫はいるが子はいない。講師というだけでなく、お茶の水女子大学大学院博士課程に今も籍を置いている研究者でもある。本当はさっさと学籍を抜いてしまいたいと願っているにもかかわらず、8年も籍を置いているのには理由がある。
大理さんは日本学生支援機構から奨学金を借りている。大学院生に対する奨学金は、修士課程の2年間分と博士課程の3年間分の最長5年間のみしか保証されない。ひとたび大学院生でなくなってしまうと、たとえ定職がなくても返済義務がただちに生じてしまう。それを猶予してもらうためには、できる限り長く学生であり続けるしかない。もちろんその間の授業料も発生する。大理さんが専攻している人文学系の学問分野ではこのようなことは珍しくはない。そもそも人文学は大学教員になる以外には、ほとんど生計を立てる道はない。しかも、その免許証であるとされる博士の学位を取るのは、他のどの分野にも増して難しいのだ。
さらに、研究者の中でもお金に困っている大学非常勤講師の多くは英語担当の語学教師にちがいないと大理さんはいう。外国語科目はいわゆるマスプロ授業(大教室で大人数の学生を相手に行う授業)になじまないために、多くの教員を必要とする。もちろん、必要な分だけ専任教師を雇うと人件費が膨らむ。それを嫌う大学側は、非常勤講師で授業を手当てしようとする。こうして「専任教師にはなれない仕組み」ができあがる。
こうして、高い学歴を持ちながら、非正規雇用の永久ループから抜け出せなくなってしまうのだ。
「正規雇用」という制度のレールに乗った人と者と乗れなかった者が直面する現実がある。どんなにいい大学を出ていたとしても、非正規雇用である非常勤講師であれば月給は20万円程度。厚生年金などにも加入できず、健康保険も自腹。給与は時給計算で、何年勤務しても昇級など一切なく、退職金などあり得ない。高齢化すれば、ある日、雇い止め通知が家に配達され、それで終わりということもあるという。
一方、学歴では劣る短大卒でも、正規雇用で学校法人の事務職などになれば、年金も退職金もある上に給与は毎年昇級する。万一、病気になったとしても生活はある程度補償され、職階もキャリアに応じて上がっていく。大学関係者という括りで見れば、高学歴な非正規雇用者と、そうでない正規雇用者では、生活レベルに圧倒的な差がついてしまうのだ。
「高学歴=高収入」という時代ではもうないのかもしれないが、優秀な人材が制度の問題などによって、正規雇用されずに貧困に陥ることがある。男女平等が叫ばれ、男性よりも女性の方が、年収が高いということも少なくないが、本書のような高学歴女子の貧困というケースもあるということだ。不利な制度でも尚、好きな分野で道を切り開くのか。専業主婦になるのが賢いのか。
少なくとも学歴さえ得れば安心、という考えは捨てた方がいいに違いない。
(新刊JP編集部)
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