動物園の人気者といえばパンダですが、このパンダに「値段」をつけるとしたら、いくらになると思いますか?
もちろん、「絶滅危惧種」であるパンダの商業目的での取引は禁止されています。しかし、あえて無理やり値段をつけたらどうなるか、というユニークな問いかけを使って、ファイナンス(金融)の知識を解説してくれているのが、『パンダをいくらで買いますか? ストーリーで学ぶファイナンスの基礎知識』(野口真人/著、日経BP社/刊)です。
必要だと思いつつも、難解なイメージから敬遠する人が多いファイナンスを、簡単かつ要点を押さえて教えてくれる本書。ここでは、パンダの値段を題材に、ファイナンスに不可欠なバリュエーション(価値評価)の方法について取り上げます。
■ファイナンスは「原価」より「時価」
価値評価とは、言ってみればモノの価格を決めること。そのための考え方はいくつかあります。
たとえば、飲食店などでは、原材料費や人件費、光熱費などの「原価」に利益を上乗せして値段を決めるという「原価法」がメインで使われています。
しかし、残念ながらパンダの値段を決める時、このやり方は通用しません。なぜなら、パンダの値段には「相場」がないからです。
なので、パンダの飼育コストなどを原価として値段を設定しても、それが市場価格として適正とは言えないのです。
このように、原価を元に価格をつけられないモノについては、「その時の値段」つまり「時価」を元に価格をつけなければなりません。
ファイナンスの世界では、この「時価」が重視されます。
■似た商品を元に値段を決める「取引事例比較法」とは?
「原価法」が役に立たない場合、過去の「似た事例」を元に価格を算出する「取引事例比較法」というやり方もあります。
たとえば、ネットオークションでパンダを出品するという情報を流したら、物好きな人が入札してパンダの状態に即した値段をつけてくれるかもしれません。その値段を「取引事例」としてパンダの値段を決めるというのも「取引事例比較法」の一種ですし、“コアラは一頭5000万円だから、パンダは1億円くらいかな”と、パンダと同じように貴重な動物の値段から類推するのもそうです。
しかし、オークションの落札価格は、一番高い入札価格ですし、別の動物の値段を元にするというのも無理があります。どうしても大ざっぱな感は否めません。
また、この取引事例比較法には致命的な欠点があるのです、詳しくは本書の中で解説しています。
■ファイナンスでは「パンダが生み出すお金」を計算に入れて値段を決める
では、どうすればパンダの適正な価格を算出することができるのでしょうか。
ここでは「収益還元法」の考え方がポイントとなります。
パンダを保有して、動物園で展示すれば、入場料収入は増えて、関連グッズも売れるはずです。このように「将来手に入るお金」から現在のモノの価値を計算するのが「収益還元法」です。
パンダを手に入れることによって増える収益から初期費用(飼育舎設置費用など)や維持管理コスト(エサ代など)をマイナスして、パンダを保有する年数(寿命を迎えるまでの年数など)を掛けることで、パンダが死ぬまでにいくら利益を残すかがわかります。
しかし、これがそのままパンダの値段になるわけではありません。
お金の価値が経年によって変わることや、パンダが思ったより早く死んでしまうなどといったことも考慮して、値段を決めなければなりません。
その際にポイントとなるのが「リスク」や「割引率」といった考え方。
本書では、これらを使ってパンダの価格を算出していきます。
ファイナンスはビジネスで需要の多い知識ではあるものの、ファイナンスについて書かれた本は、あまりに専門的すぎるか、逆に易しく説明しすぎて大事なポイントが伝わらないものがほとんどで、「入門書」として優れたものは、実はあまり多くありません。
著者はMBAスクールで延べ1000人を超える社会人にファイナンスを教えてきたのですが、彼らの多くが理解する上で陥ったトラップは共通しているとのことです。、本書は、ストーリー仕立てでそれらのトラップについてを解説してくれるため読みやすく、難しい理論も自然に理解できます。モノやサービスの値段から会社・事業の値段に至るまで、世の中の事象を「お金」という価値に換算する力が身につくのです。
本書を読めば、パンダの値段もFACEBOOKの株価も同じ方法で導くことができることが理解できるはずです。
「ファイナンスの基礎知識やセンス」を本書で学んだ皆さんは、社会や経済をいままでとは違う視点で捉えるようになるはずです。そして、経営企画、新規事業開発、マーケティング、R&Dなどのビジネスがレベルアップすることは間違いありません。
(新刊JP編集部)
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