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ヤフー、楽天、ネット成功企業がリアルに進出する理由

 ここ数年で、自分の買い物が変わったと感じている人は多いだろう。
 ネットから割引クーポンを入手して実店舗で使ったり、実店舗で買い物をしたことで貯まったポイントをネットショッピングで使ったりと、消費活動において、ネットとリアルの壁はどんどん薄くなっている。
 この状況をもたらしたのは、言うまでもなくスマートフォンの普及だ。
 情報端末としての機能に加えて、それ自体で決済ができるため、ネットとリアルを自由に行き来する消費活動が可能になった。
 この変化はどこに向かうのか、またこのような時期に消費者はどのように買い物をすべきなのか。
 『ネットからリアルへ O2Oの衝撃 決済、マーケティング、消費行動……すべてが変わる!』(阪急コミュニケーションズ/刊)の著者、岩田昭男さんにお話を聞いた。

―『ネットからリアルへ O2Oの衝撃 決済、マーケティング、消費行動……すべてが変わる!』についてお話を伺えればと思います。本書の内容の中心として、ネット企業のオフラインへの進出が挙げられると思いますが、まずはその背景をお聞かせ願えればと思います。

岩田「この本ではヤフー、アマゾン、ドコモ、楽天、リクルートの5つの企業に焦点を当てています。なぜかというと、彼らのように5000万人以上のネット会員を抱えている巨大戦艦のような企業が5つも出てきたというのがまず大きな衝撃だったからです。そして、彼らは、たとえばネットでの顧客をリアル店舗に送って、店舗からの集客料や販促費で利益を上げるというような形でオフラインに進出しようとしていて、それが“O2O”というネーミングで括られている動きです。
ただ、私は“ネット企業のオフラインへの進出”という言い方ではなく、“ネットとリアルの統合”という表現の方が実情に近いと思っています」

―そういった動きの理由として、“ネットからの収益は取り尽くした”ということがあるのでしょうか。

岩田「市場として小さいということでしょうね。昨年の日本でのネット上での消費は約8.5兆円。これに対して、リアルでの消費は140兆円もあって、規模が全然違います。彼らはそこを狙っているわけです。
以前から大きな市場に出たいというのはあったのでしょうが、これまではネットとリアルをつなぐデバイス、ツールがなかった。
でも、スマートフォンが出てきたおかげで、それまでの問題がほとんど解決されて、ネットとリアルをつなぐことができるようになったということです。
そのおかげで、もちろん消費行動も変わりますし、企業のマーケティングや決済などさまざまなところに変化が顕れるはずです」

―これまでは“ネットはネット、リアルはリアル”という感覚がありましたが、スマートフォンによってそれが一つになる。

岩田「2000年ごろ、リアル店舗とオンラインショッピングを両方やることで相乗効果を狙う“クリックアンドモルタル”という手法がありましたが、当時からネット企業はリアルに出たかったんですよ。
でも、当時はインターネットの普及率も今より低かったですし、どこにいてもインターネットに接続できるツールがなかったから、ネット企業は自分たちの顧客のリアルでの消費を取り込むことができなかった。結果として、ネットはネット、リアルはリアルでバラバラになっていたんです」

―O2Oのモデルとして、“ネットからリアルへの送客”を挙げていただきましたけども、それだけではあまり大きな利益にはならないような気がします。

岩田「たしかに、ネットの顧客をリアル店舗に送って、販促費を得るというだけでは大した儲けにはなりません。しかし、重要なのはネットとリアルがシームレスにつながったということ自体で、これは一つのフロンティアが拓けたということを意味します。それをどう開拓していくかというのは企業それぞれ違うのでしょうが、さまざまな可能性が考えられると思います」

―本書で取り上げられていた、大手ネット企業各社のO2Oへの取り組みは興味深いものでした。各社それぞれの傾向を教えていただけませんか?

岩田「ヤフーのポータルサイトは、3、4年ほど前からスマートフォン関連のサービスの割合がすごく増えたんですよ。
もちろんこれは戦略で、当時からスマートフォンでリアルとネットを結びつけて何かをやろうと考えていたんでしょうね。恐らく裏で糸を引いているのはグーグルかどこかだと思います。今の米ヤフーのCEOが元グーグルですし。
だから、日本ではヤフー主導でO2O革命が始まったと言ってもいいと思います。
ただ、ネット企業は多かれ少なかれそうなのですが、ヤフーはリアルに対しての免疫がないんですよ。だから、ヤフーはTポイントを運営しているカルチャー・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)と、クレジットカードのJCBを巻き込んで、ポイント関連と決済周りを強化し、自分たちが後ろで糸を引くというモデルにした。
でも、CCCにしてもJCBにしても、ずっとリアルでの消費に携わってきて百戦錬磨ですからね。提携したものの、どちらが主導権を持つかというのはまだわからない部分も多いです」

―楽天はいかがですか?

岩田「楽天は、日本のネットショッピングを引っ張ってきた会社ですよね。
彼らはメールなどでキャンペーン告知をバンバン送ることでOLや主婦層にものすごく人気があるんですけど、軸はPCにあるんですよ。つまり、顧客を楽天関連のサイトの中に囲い込んで、できるだけ外に出さないようにするというやり方だった。
それがずっと成功していたんですけど、去年アマゾンが日本での売上高を発表して、自分たちが彼らに遠く及ばないということがわかってしまいました。
そこから急に、ヤフーの後を追うようにリアルの市場に目を向けるようになったんです。
具体的な取り組みとしては、リアル店舗でもポイントが貯まり、使えるようにする“共通ポイント化宣言”、クレジット機能がない“楽天Rポイントカード”の発行、クレジット決済ができるスマートフォンである“スマートペイ”の導入などです。
あとは、リアルに出ていくにはテレビCMを打つのが一番いいということで、最近テレビ
でもよく楽天の名前を見かけますよね」

―リアル市場への取り組みでいうと、アマゾンはやや出遅れた感がありますね。

岩田「アマゾンは、アメリカと日本で大きく違っていて、アメリカのアマゾンはリアル市場への取り組みがかなり進んでいるようです。
アメリカのアマゾンは、生鮮食品のミニスーパーをたくさん出しています。日本のアマゾンでは考えられないことですよね」

―アマゾンに関しては、リアル進出の必需品とも言えるクレジットカードを自社で発行していないというのを弱点として挙げられていましたね。

岩田「実はそれは語弊があって、アマゾンは以前にシティバンクと提携してクレジットカードを発行したことがあるんですよ。ただ、利益が出なかったとかで、提携を解消してやめてしまったんです。それ以降は、リアルに出ようとするのではなくむしろネット通販に特化してやってきた感がありますね。
ただ、今後はアメリカと同じようにリアル店舗をどんどん出す可能性もありますし、クレジットカードもいずれはどこかと組んで発行するだろうと思っています。今のところ、クレジットカード関連の取り組みとしては、JCBのポイントを使ってアマゾンで買い物ができる、ということくらいですね。あとは、JALのマイルをアマゾンのギフト券と交換できたり、アマゾンでの買い物でJALのマイルを貯められるというサービスも始まっています」
(後編につづく)

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