町中にある個人経営の小さな商店がどんどんなくなってきていると感じているのは、私だけではないはずだ。
子どもの頃に通った駄菓子屋や青果店はいつの間にかなくなり、コンビニエンスストアやスーパーマーケットにとって代わられた。消費者としては便利になったし、より安く物が買えるようになってありがたいのだが、思い出のある店のもう開かないシャッターの前を通るたびに、一抹の寂しさを感じてしまうこともある。
小さな商店はこのまま大きなチェーン店に呑み込まれるしかないだろうか。
しかし、マーケティングのやり方次第では、小さな商店が逆襲を仕掛けることも可能だという。
『なぜ小さなコスメ店が大型ドラッグストアに逆襲できたのか?』(中沢敦/著、中経出版/刊)は、糸川市という架空の地方都市のシャッター商店街にあるコスメ店を経営することになった若い女性(有村小雪)が、郊外にできた大型ショッピングモールのドラッグストアに、様々なマーケティングを駆使して戦いを挑んでいくというビジネス小説だ。
そんな本書の物語の鍵を握るのが、著者の中沢さん。
そう、中沢さん自身が登場して、主人公の小雪にアドバイスを出していくのだが、その中で常識を覆すいくつかのヒントを口にしている。
(1)田舎町の個人経営だからといってスマートフォンを無視してはいけない
高齢化がすすむ地方においては、スマートフォンやインターネットなどを使ったO2O(オンライン・トゥ・オフライン)マーケティングなど意味をなさないと思っている人も多いはずだ。
ところが、本書では、スマートフォンの普及はそれなりに進んでおり、新しく買い替える場合はスマホにする人が多いと言う携帯ショップの店員が描写されている。だとすれば、「O2O戦略は田舎では通じない」という考えは実は思い込みにすぎなかったということになる。
(2)シャッターが降りた理由ではなく、まだ開いている理由を探れ!
人はネガティブなものに目を向けてしまうものだ。だから、シャッター通りを歩いているとシャッターが下りてしまった店ばかり目がいってしまうが、中沢さん曰く、「本当に重要なのは、シャッターが下りていないほう」。
大型ショッピングモールが郊外にできて根こそぎ顧客を奪われても、経営を続けているお店にはそれなりの理由がある。そこに、シャッター商店街にも生き残りの秘策があるといえる。ネガティブな方向ではなく、ポジティブなものを見ることが大事なのだ。
(3)「O2O」こそ小さなお店が「逆襲」するための武器である
本書において、若い小雪の強い味方になったのが、糸川市に住んでいる女子高校生たちだった。小雪は女子高生たちから様々なことを学び、助けられながら、店を残そうと奮闘する。
そんな姿を見て、中沢さんは「O2O」マーケティングこそ、小さな企業・店舗が大企業や大型店に逆襲するための武器だと小雪にアドバイスする。LINEやFacebook、Twitterなどを活用した「O2O」マーケんティングは、運用コストや設備投資を考えれば大手に有効な戦略だと思いがちだが、小さな企業にもやり方があるという。
では、小雪はどんなやり方を使って、お店を立て直し、さらには商店街を巻き込んでいったのだろうか? それは実際に本書を読んでいただくとして、マーケティングは思い込みからいかに抜け出し、大型店にはない価値を提供していくかが重要であると気づかされるだろう。
本書には「O2O」の他にも、ランチェスター戦略やビッグデータ戦略、プライス戦略、ブランディング戦略といったマーケティング手法が物語の中に登場しており、内容は盛りだくさんだ。
最近では酒々井プレミアム・アウトレットがオープンし、ゴールデンウイーク前に大きな話題になったが、その一方で地方都市の商店街や個人経営のお店は窮地に追いやられている。しかし、諦めるのはまだ早い。
本書は地方の商店街活性化の方法にも触れているので、個人で商店を経営している人から、地方経済の活性化を考えている人まで、幅広い人が参考にできるはずだ。
(新刊JP編集部)
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