これまで日本は世界に通じる様々な商品を生み出してきました。しかし、今はその勢いも衰えてきているように感じられます。「どうして日本人はiPodを作れなかったのか」という問いからはじき出されるのは、日本にはイノベーションを巻き起こす土壌がなくなっているということ。では、そうした土壌を復活させるにはどうすればいいのでしょうか。
かつてマッキンゼー&カンパニーに在籍し、北欧企業へのコンサルティング業務のために約2年間デンマークに住んでいたという炭谷俊樹氏は、北欧で新たな考え方にふれ、それを日本に持ち帰り、神戸情報大学院大学の学長として学生たちに教育しています。
ここでは、炭谷氏が執筆した『実践 課題解決の新技術』(PHP研究所/刊)から、"探究型"の生き方・考え方、そして探究実践の進め方について紹介します。
■「偏差値型」と「探究型」の違いとは?
炭谷氏は、これまでの日本は偏差値型の考え方をしてきたと指摘します。その特徴は、「競争に勝つ」「人よりよい学校・社会へ」「目標は外や上から与えられる」「勝ち組・負け組」「経済価値重視」といったもの。目標が外から与えられ、数字によって客観的という名のもとに評価が下されます。そこには「正解」という幻想があり、「こうすれば安泰」「こうなれば安全」というような価値観が全体にはびこっています。
一方の探究型の特徴は「自立・協創」「自分の幸せ・生き方は自分で決める」「人や社会に貢献できたかの『社会価値』重視」といったように、自分の成し遂げたいことを見つけて、自らそれを開拓していくというやり方です。
探究型の生き方には「正解」がないのです。自分のことは自分で決めるという理念がそこには詰まっています。炭谷さんはデンマークでの生活の中で、彼らは人との競争や偏差値ではなく、自分が何をやりたいのかという、内発的な動機で動いていることに気づきます。
■「探究実践」に必要な3つの要素
では、探究型の生き方を実践するためにはどうすればいいのでしょうか。
炭谷氏はこれを「探究実践」と名付け、神戸情報大学院大学の必修科目に取り入れています。「探究実践」は次の3つの要素からなります。
(1)社会における「課題」を発見する
(2)自らの「強み」(専門性と人間力)を磨く
(3)「現場」で課題解決を「実践」する
本書における「探究」は、ただ一人で思索を深めるのではなく、一般社会や仕事の現場での課題の解決を実践することを前提としています。そのため、神戸情報大学院大学では、学生がITを使ったシステムを構築し、実際にユーザーに使ってもらうことで、本当に課題解決につながっているのか、そのシステムができて喜んでいる人がいるのかを確かめるそうです。
これは、「言われたことをただやり、そこで頑張る」という旧来のタイプとは真逆のアプローチであり、課題解決を通して「経営」を学ぶという側面もあるので、社会に出ても通用するはずです。
本書では「探究実践」のモデルケースも紹介しています。
この「探究実践」は神戸情報大学院大学だけでなく、東京大学大学院のイノベーター養成講座「i.school」でもメソッドが用いられたそうで、新しい時代の考え方・生き方として、さらに注目が集まりそうです。
(新刊JP編集部)
【記事原稿】
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