かつて産業革命が起こった頃、それまでは物品の輸送を担う貴重な“労働力”だった馬の大半が“職”を失ってしまった。それと同じことが21世紀の今起こりつつあるのかもしれない。しかも、今度お払い箱となるのは我々人間だ。
『機械との競争』(エリク・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー/著、村井章子/訳、日経BP社/刊)は、アメリカ経済がリーマンショック以降の景気停滞から立ち直りつつあるにも関わらず失業率が下がらないことの原因を、テクノロジーの発達に人間(労働者)が追いついていけないことだとして、絶え間ない技術発展が雇用を破壊していることを指摘している。つまり、機械が人の代わりをできる、あるいは機械の方が人よりいいパフォーマンスができる仕事が増え、労働者が入り込む余地がなくなりはじめているというのだ。
では、今後どんな仕事が機械化され、なくなっていくのだろうか。
■トラック・タクシー運転手は不要になる?
従来、コンピュータは「既存のルールに従う仕事」は得意な反面、決まったルールの存在せず、状況から推測する要素の大きい仕事は苦手とされてきたが、ここ数年でその苦手分野の一部が改良されてきている。
例えば市街地での車の運転。
トラックの運転手は周囲の環境から視覚、聴覚、触覚に訴える様々な情報を受け取って処理しながら運転している。これを機械化するためには、ビデオカメラやセンサーを使って膨大な情報を収集し、プログラミングしなければならないわけだが、実際の車道は、右折一つ取っても関与する要素があまりに多く、運転手の行動を再現できるルールを定めることはできなかったのだ。
しかし2010年、グーグルが公式ブログを通して、トヨタ・プリウスを改造した完全自動運転者でアメリカの道路を1600km走破したと発表した。混雑した道路での自動運転という極めて困難なタスクが、コンピュータによって可能になりつつあるのである。
■複雑なコミュニケーションが機械にとって代わられる日
人間同士の複雑なコミュニケーションも、長らくコンピュータには真似ができないものだとされてきた。
その最たるものが異なる言語間の翻訳だ。インターネットの翻訳サービスが始まって久しいが、その質はまだまだという認識を持っている人も多いだろう。
文法や語彙は極めて複雑で、時にあいまいなためコンピュータでは細かなニュアンスまで他の言語に移し替えることができなかったのだ。
オンライン翻訳サービス会社のライオンブリッジがIBMと共同開発した機械翻訳ソフト「GeoFluent」(ジオフルーエント)は、そんなコンピュータ翻訳の課題をかなりの水準でクリアしている。
会話や質疑応答に威力を発揮し、少なくともビジネス目的の翻訳・通訳では十分に役割を果たせることが実証された。さらに改良が加えられたら、もしかしたら将来的には翻訳家という職業がなくなってしまう可能性もないとはいいきれないのだ。
■人間がまだ勝っている部分
では、まだ人間がコンピュータに勝っている部分はあるのだろうか。
本書によると、意外なことに肉体労働の分野にそれが多く残されているという。
人型ロボットの運動機能はまだ拙いため、庭師やウェイターといった仕事がすぐに機械化される心配はない。また、配管工や看護師も一日中、小さな問題解決や予想外の出来事、複雑なコミュニケーションを繰り返しており、これも機械が取って代わるまでには多くの時間を要するだろう。
あるいは、人を感動させる音楽を作ったり、小説を書いたりという創造的な仕事もまだ人間にしかできないと言っていい。これらの職業についている人は、当面は自分の仕事が機械化されて奪われる心配はないだろう。
本書には、コンピュータによってどのようなことが機械化され、どんな職業が衰退していくのか。その局面において私たち人間はどうすればいいのかがつづられている。
コンピュータの発達は足取りを止めず、次々と対処可能な動作や技能を増やしていくのは間違いない。
その時に私たちの雇用がどうなるかは誰にもわからない。
(新刊JP編集部)
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