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直木賞候補の連絡は「書店でマンガを買おうとしたときに来た」

 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第48回となる今回は、『盤上の夜』で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞してデビュー、この作品が収められた同名の短編集がいきなり第147回直木賞候補となり、同作で第33回日本SF大賞を受賞した宮内悠介さんです。
 この作品では、将棋・囲碁などのボードゲームを中心に据え、一人のジャーナリストを通して、それらのゲーム・競技のさなかに起こった人知を超える事件や出来事が語られます。
 古くから人間が親しみ続けてきた"ボードゲーム"に宮内さんはどのような可能性を見出したのでしょうか。
 注目のインタビュー第2回目です!

■ 候補に上がるとは予想もしていなかった直木賞

― それはそうと、直木賞は残念でしたね。ただ、選評を読む限り選考委員はおおむね好評価でした。

宮内「"なんでこんなのが候補に上がってきたの?"と言われると思っていたのですが、みなさん好意的な評を書いてくださいました。そのなかで、宮城谷昌光さんが作品全体の敷居の高さのようなものを指摘しておられまして、これは胸にとどめなければと思いました」

― 候補上がったことを知らされた時の心境はいかがでしたか?

宮内「候補になったという電話がきたのが、吉祥寺のブックスルーエで『キン肉マン』の新刊をレジに運ぼうとしたまさにその瞬間でして、非常に取り乱したのを覚えています。それはともかく、まさかこのようなことになるとは、いっさい想定していませんでした」

― 選考の日はどうされていましたか?

宮内「この本の版元の東京創元社さんを中心に、その時交流のあった編集者の方々と待っていました。新人が"待ち会"というのもどうかと思ったのですが、せめて少しは盛り上げようと(笑)」

― 宮内さんが小説を書き始めた経緯はどのようなものだったのでしょうか。

宮内「16、17歳くらいの頃に新本格ミステリにハマったのがきっかけです。それこそ綾辻行人さんとか。それと、当時たまたま隣のクラスに"犯人当てたらカレー一杯おごるよ"って言って、自分で書いた犯人当て小説を学校に持ってくる人がいまして、"おもしろそうだから俺もやってみよう"と思ったのが最初です。そこからはずっと書いています」

― 高校生の頃から書き始めるというのは、比較的早い気がします。

宮内「早いかどうかはわからないですけど、隣のクラスでは盛んでした。うちのクラスでは音楽の方が盛んでしたが」

― 音楽もやっていらっしゃったんですか?

宮内「小説よりも音楽の方が早くからやっていました。小学六年生の時にMSXという8ビットのパソコンを買ってもらいまして。それが音源の積まれた機種でしたので、じゃあ曲を作ってみようと。家に楽器があったから弾いてみた的な始め方でした」

― 次に、読書についてお話を伺いたいのですが、小説を書き始める前から本は好きで読んでいましたか?

宮内「遡るとどこまで行くかわからないのですが、"これすげえ!""これ面白い!"となったもので明確に覚えているのが(フィリップ・K・)ディックとドストエフスキーです。
でも、当時は何と言いますか、"本"とか"文学"とか、そういう枠組みを意識したことがなかったんですよ。小説を表現形態として意識しながら楽しく見始めたのは、自分で小説を書き始めてからです」

― ご自身で小説を書き始めてから"これはすごい!"と思った作品があれば教えていただければと思います。

宮内「数え切れないほどあるので、どれを挙げていいものか...(笑) さっきお話した綾辻さんや竹本健治さんは、自分にとって原体験的な作家ですから、自分の中を占める比重はとても大きいです。
そこから物語、構造、文体といったものに目を向けはじめ、日本文学へ移行し、中上や大江、開高健あたりで第二の衝撃を受けました。その後がやっと世界文学です。ラテンアメリカ文学が好きになりましたね。ボルヘスとマルケスでいうと、マルケスの方が好きです」

― 僕もマルケスの方が好きです。実はボルヘスは何回も挫折しているんです。最後まで読めなくて。

宮内「私も読めたかどうか怪しいです。もしかしたら、どうこう言える段階ではないのかもしれません。で、読書遍歴的には、世界文学を経てようやくSFを再発見しました」

第3回「質にこだわって、ヘンなものを」に続く

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宮内悠介さんのデビュー作『盤上の夜』

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