警察庁が今年1月17日に発表した2012年の自殺者数の速報値は27766人と、15年ぶりに3万人を下回りました。それでも一年間にたくさんの自殺者がいるということには変わりないし、自殺未遂者を含めればこの数は大きくなるはずです。
現在、うつ専門のカウンセラーとしてうつ病患者と向き合っている澤登(さわと)和夫さんは、かつて自分も重度のうつ病にかかり、マンションの上から飛び降りたという経験があるそうです。そのときのことを、著書である『人生をやめたいと思ったとき読む本』(東洋経済新報社/刊)でこんな風に回想しています。
2005年8月のある朝、ぼくはボーッとしながら家の近くを歩いていました。
元気になりたいための散歩ではなく、どのマンションから飛び降りるか決めるために歩いていました。
そして、その日の夜、ついにスイッチが入りました。
(中略)
・・・その時は最上階から下を見ても、なぜかまったくこわさを感じませんでした。
下に人がいないことだけを確認し、少し戻って助走をつけました。
迷うことなく、ポンっと飛び降りました。
ぼくは途中で、気を失いました。
(p22-p23より引用)
目を開けた澤登さんは、自分がコンクリートの上で寝そべっていることに気づきます。運よく足から着地したため、左ひざの骨折や足・頭から出血の怪我だけで一命を取りとめたのです。
会社でバリバリ働き、人生は順風満帆だと思われていた澤登さんは、激務の果てにうつ病にかかり、奥さんとも離婚。どんどん追い詰められていきます。「とにかく楽になりたい」「ゼロからやり直したい」「一秒一秒がしんどくてそこから逃げたい」「人生をやり直すしかない」。飛び降りたとき、澤登さんの頭の中には、そんな想いしかありませんでした。
しかし、病室で何も言わずにずっとそばにいてくれる母親を見て、「弱い自分を見せてもいいんじゃないか」「ちょっとたよってもいいかな」と少し思えるようになったといいます。
■動かない勇気を持つ
澤登さんが、それから4年後、完全にうつ病から解放されてカウンセラーになった後にブログに書いたのが「動かない勇気」というエントリです。
元気になるには行動することから、という言葉はよく耳にするでしょう。しかし、本当に元気がないときに行動しても、もっと元気をなくしてしまうことだってあります。元気がないときは、動かない。パワーを蓄えている、と考えるのです。
この澤登さんのエントリを読んで「はっとした」というある男性から澤登さんに連絡が入り、男性は澤登さんの電話カウンセリングを受けながら社会復帰。そして、自らのうつ病経験からセラピストとして活躍しているといいます。
本書ではこのように、澤登さんや同じように人生をやめたいと思っていた方の経験を通して、うつになってよかったこと、後悔との向き合い方、睡眠の大切さなど、うつに対する考え方を述べています。
実は澤登さんに襲い掛かる困難はうつ病だけではありません。飛び降りから2年後、社会復帰の目途が立ったと思った途端に、潰瘍性大腸炎にかかり、大腸を全摘出する出術を行いました。
飛び降りたときの気持ち、精神、その後の過程が淡々と、しかし生々しく描かれている本書はうつ病とはどういうものなのかを垣間見ることができ、そしてうつ病になったとき、どう考えればいいのかのヒントを与えてくれるはずです。
(新刊JP編集部)
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