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友達が先に内定、心から祝福できる?

 今年もまた就職活動のシーズンがやってきた。多くの学生がこれまでやったことのない"自己分析"をして、エントリーシートを書き、そして慣れないスーツを着て説明会や面接に出向く時期だ。
 まして、就職氷河期といわれる今、どうにかして内定がほしい、採用されたいという強烈な気持ちは皆同じだろう。そんな状況で、もし自分の親しい友人が先に内定をもらったとしたら、素直に祝福することができるだろうか?
 2012年下半期の直木賞候補作の一つ、朝井リョウの『何者』は、就職活動をモチーフに学生たちの自我を鮮やかに描き出している。

 ふとした縁から、情報交換やエントリーシートの添削など、就活を協力してすすめることになった拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良の五人。それまで就職について何も考えてこなかった拓人は、海外留学の経験を持つ瑞月や、学生団体のリーダーをやっていて、すでに練習用のエントリーシートを書き始めていた理香、その彼氏で就職活動をせず独自の生き方を模索する隆良らに引け目を感じるが、就活を続けるうちに拓人は彼らの行動や考え方に違和感を持つようになっていく。
 特に、自作の名刺を作ってOB訪問で配り、これまでの自分の経歴をアピールすることに必死な典型的"意識の高い学生"である理香には、どこかやる気が空回っているような"痛い"印象を、具体的な成果をあげたわけではないにもかかわらず、思いついた企画のすばらしさや、その過程であった人のことを大げさにツイッターで発信する隆良には、かつて共に劇団を立ち上げたものの、仲違いして別れた友人と共通するものを感じ、拓人は苦手意識を禁じえない。
 同時に、他の面々もエントリーシートで志望する企業を落とされたり、面接を通過できなかったりする日々の中で少しずつそれぞれの考え方を変えていく。そして彼らのグループが気の置けない仲になり、互いにどんな人間かがわかり始めてきた頃、瑞月が彼らの中で最初の採用内定者となる。
 彼女の祝いの席で、心から瑞月を祝福しているかのように振舞った理香だが、拓人は彼女の言葉の端々に潜む棘を見抜く...。

 就職活動は、自分が世の中をどのような視点で見ていて、どのように生きたいのかを不可避的に剥き出しにする。本作の登場人物たちも就活を通して自らの価値観を自覚していくが、弱みも陰もない、完全無欠の価値観など存在するはずもなく、彼らは他のメンバーの言動によって自らの価値観の陰の部分を指摘され、揺さぶられる。
 迷いと不安のなかでもがく学生たちの確立しきっていない自我が衝突し、新しい価値観に至る。それはまちがいなく成長と呼べるもので、その描写こそが本書の醍醐味だろう。

 学生の人は本格的に就職活動を始める前に、もう就職して働いている人はかつての自分と照らし合わせて読むと、きっと楽しめるはずだ。
(新刊JP編集部)

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