オーディオブック配信サービス「FeBe」を運営する株式会社オトバンクが主催する、2012年で最も優れたオーディオブックを発表・表彰する「第4回オーディオブックアワード」が、12月11日、東京・六本木で行われた。
「オーディオブック」とは本を朗読した、いわば“耳で聴く本”のこと。以前はカセットテープやCDなどが主流だったが、ここ数年、MP3プレーヤーやスマートフォンの普及に伴い、ダウンロード形式での配信・販売サイトが成長を見せている。
その国内最大手となる「FeBe」は今年、会員8万人を突破、販売タイトル数も8000以上を超え、月あたり20000点以上が売れているという。
大賞発表前に行われたトークセッションでは、元講談社の編集者として『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』を手掛け、現在は作家のエージェントを行う株式会社コルクの代表取締役社長である佐渡島庸平氏と、京都大学客員准教授で新刊『武器としての交渉思考』(星海社/刊)を刊行した瀧本哲史氏が登壇。「これからの時代の出版業界・コンテンツの目指すところ」というテーマで、出版業界内部に起きている変化について議論を交わした。
佐渡島氏は現在の出版業界の仕組みについて「作品を書いたら雑誌に載せ、紙の本にして出すという一本の流れがあったが、電子書籍やオーディオブック、さらには新しく出てくるかもしれない新たなメディアの登場に対応しきれてない部分がある」と指摘。誰が新しいメディアに対しての決定権を持っているのが定まっていない出版社の状況を明らかにした。その上で、作家のエージェント会社であるコルクを通して国内の出版社に競争の原理を植え付けたいと語り、さらに、日本のコンテンツの海外での状況を踏まえて、コンテンツの海外輸出に関しても意欲を見せていた。
また、コルクとオトバンクが提携し、コルクに所属する作家の作品を順次、オーディオブック化することも発表。その第一弾となるのが山崎ナオコーラさんの『論理と感性は相反しない』(オーディオブック版は来年発売予定)だ。朗読を担当するのは元AKB48で女優の折井あゆみさん。今回は折井さんによる生朗読も行われ、男女のやりとりを感情豊かに読みあげた。
続いて行われたオーディオブックアワード表彰式では、壇上に登った受賞者たちがオーディオブックに対する想いを語った。
『読書の技法』で優秀作品賞を受賞した佐藤優氏は、10年前に収監されていた東京拘置所の中で流れていたラジオ番組で触れたオーディオブックの内容をいまだに覚えているとコメント。宮部みゆきさんの『蒲生邸事件』と、村山由佳さんの『おいしいコーヒーのいれ方』の2作を印象に残った作品としてあげ、それぞれの作品の思い出を語っていた。
また、オーディオブック・オブ・ザ・イヤーに選ばれた『7つの習慣 クイックマスター・シリーズ』の表彰では、フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社代表取締役社長のブライアン・マーティーニ氏が流ちょうな日本語で「この賞を受賞できて嬉しく思います」とコメントしていた。
佐渡島氏も瀧本氏もこれから出版業界は大きく変わるだろうという見解で一致していた。その中、オーディオブックは新たなコンテンツの消費方法として飛躍が期待されていることは間違いない。
今後はジャンルを広げながら、スマートフォンユーザー層を取り込んでいきたいとオトバンク会長の上田渉氏。来年はどんな作品が受賞するのか楽しみだ。
(新刊JP編集部)
■「第4回オーディオブックアワード」受賞作品一覧
【オーディオブック・オブ・ザ・イヤー】
『7つの習慣 クイックマスター・シリーズ』
(フランクリン・コヴィー・ジャパン/編著、茶川亜郎/ナレーター)
【優秀作品賞】
『読書の技法 誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門』
(佐藤優/著、東洋経済新報社/刊、茶川亜郎/ナレーター)
【審査員特別賞】
『人前で話すのがラクになる!5つの魔法』
(金光サリィ/著、ダイヤモンド社/刊、北林きく子/ナレーター)
『99%の人がしていない たった1%の仕事のコツ』
(河野英太郎/著、ディスカヴァー・トゥエンティワン/刊、市村徹/ナレーター)
【ビジネス書部門大賞】
『イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」』
(安宅和人/著、英治出版/刊、西村不二人/ナレーター)
【文芸書部門大賞】
『ばんば憑き』
(宮部みゆき/著、NHKサービスセンター/刊、中嶋朋子/ナレーター)
■「FeBe」
http://www.febe.jp/【関連記事】
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