若い人にとっては、海外一人旅などもう当たり前になっていますが、50代より上の世代の人の中には「海外旅行=パックツアー」というイメージが強かったり、海外旅行自体、円安などもあって行きたくても行けなかった人が多いのではないでしょうか。
こういった方々が海外を一人で旅することを避ける理由としては、言葉がわからないこと、道に迷うのが不安、あるいは道中一人では退屈してしまう、などが挙げられます。
『iPadでヨーロッパひとり旅を10倍愉しんだ私の方法』(中島美佐穂/著、明日香出版社/刊)はそれらの問題が、今ではスマートフォンやiPadで解決することができるばかりか、使い方次第では旅の楽しさを何倍にもしてくれることを教えてくれる一冊。
今回は、本書の著者で池坊短期大学准教授の中島美佐穂さんに、一人旅でのiPadの活用術についてお話を伺ってきました。
―今日は『iPadでヨーロッパひとり旅を10倍愉しんだ私の方法』についてお話を伺えればと思います。まず、本書を執筆された動機には、一人旅をする勇気が出ない人に向けて、その楽しさを知ってほしいということがあるかと思います。中島さんが考える一人旅ならではの楽しさはどういった点にありますか?
中島「何が何でも一人旅をと、推奨する訳ではないのです。どちらかというと、旅行会社のパックツアーではなく個人旅行を楽しんで欲しいという思いが強いですね。
また、パックツアーを否定する訳でもありません。飛行機や現地移動の手段やホテルの手配が面倒な方には便利な方法だと思います。
しかしながら、インターネットがこれだけ普及し情報を享受できる時代ですから、昔は大変だったことが簡単に出来るようになっていることは見逃せません。
自分の行きたい場所へ行きたい時に滞在して、見たいものを見たい時間に見て、食べたいものを食べるという楽しみ方ができるので、活用しないのはもったいないと思うんです。人はそれぞれ趣味趣向が違うわけですから、自分だけのワガママな旅を作ればいいと思います。
個人旅行の手配は年々便利になっています。たとえば数年前に、フランスとイタリアへ行きましたが、鉄道の予約は英語やフランス語などでしか出来ませんでした。でも、今は日本語でインターネット予約ができるようになっています。
ホテルも同様で、今では多くのホテルが日本語で予約できるようになっています。
旅行会社のお仕着せではなく、あらゆるものを自分の好みに応じて選択していく旅は満足度が高いです。たとえ、泊まったホテルが思っていた以上におんぼろでも自分が選んだホテルなので、誰にも文句は言えず却って楽しむ事もできます。ここのところは本書に笑い話として詳しく書いています(笑)」
―今でこそ海外一人旅は若い世代を中心に広まっていますが、中島さんが20代の頃の旅行事情はどのようなものだったのでしょうか。
中島「私が大学生の頃、1970年代の後半ですが、海外旅行に出かける学生自体が非常に少なかったですね。クラスでも1人くらいしかいませんでした。高価で贅沢なイメージでしたから、高嶺の花という感じでしょうか。
私が生まれて初めて海外旅行へ出かけたのは、20歳の時でした。オーストラリア8日間のパックツアーでしたが、費用は33万円くらいしました。その頃の国立大学の学費一年分が30万円程、私が当時借りていた学生アパートの家賃が1万円でしたから、いかに高かったかお分かりでしょうか。
1人暮らしの貧乏学生でしたから、1年くらいアルバイトで貯金しました。ラーメンばかり食べていましたね(笑)。それくらいしないと海外なんて行けない時代でしたから、今の学生は恵まれていると思います。現在なら半分以下の金額で行けますからね。
余談ですが、学生がよく『韓国3日間29800円』といったツアーに出かけたりしているので、旅に出て何をするのかと尋ねると「美味しいものを食べる」とか「化粧品を買う」「エステをする」という答えが多くてびっくりします。
そんな旅はおばさんになってからいくらでもできるので、若い時じゃないとできないような体験をして欲しいと教師の立場からは思っています」
―海外一人旅の不安要素として挙げられるのは、言葉が通じないことや地理への不案内などが挙げられます。本書ではスマートフォンやタブレット(特にiPad)がこういった問題を軒並み解決してくれることが書かれていますが、中島さんが旅先で経験した「iPadがあってよかった!」と思ったエピソードがありましたら教えていただければと思います。
中島「役に立ったアプリのナンバー1は地図、ナンバー2は翻訳、ナンバー3はメールです。
iPadの地図アプリを使うと自分が現在どこにいるかが分かる、これがなんと言っても重宝しましたね。自分の立っている場所が地図アプリを見ると青い点で示されて、とても分かり易い。歩き出すと、その青い点も一緒に動いてくれるので、どの方向へ向かっているのか一目瞭然で分かるのは紙の地図では体験できないことです。
そして目的地まで何分かかるのか、どういうルートで行けばよいのかが瞬時に分かることも便利です。紙の地図でもじっくり見れば読み取る事ができますが、iPadの地図アプリは一瞬にして表示してくれるので、心強いナビゲーターをお伴に連れているのと同じなんです。紙の地図で見つけられない目的地をiPadの地図アプリで誘導してもらったことも何度かありましたよ。
翻訳アプリもそうですね。私は英語が恥ずかしながら本当にダメで、中学生レベルなんです。どうしても意思疎通できない場合は翻訳アプリを使いました。活躍してくれた詳細な場面については本書をお読みくださいね(笑)」
―逆に、iPadで解決しきれなかった問題などがありましたら教えていただければと思います。
中島「それはたくさんあります。やはりiPadは道具ですからね。
道具は旅の大きな助けになってくれますが、アナログなところではドジばかりやっていました。列車に乗り遅れたりして、失敗もいっぱいありました。
翻訳ソフトも便利ですが、とっさの時には間に合いません。やっぱり語学を勉強しなくてはと改めて反省しました」
―旅先でのデジタル機器とアナログの使い分けはどのようにされていましたか?
中島「旅でのiPadの活用には、地図、翻訳、ガイドブック、列車時刻表、電卓、天気予報、読書、新聞、時計、カメラ、ビデオ、映画鑑賞、音楽鑑賞などが挙げられます。本書の中ではこれらすべての使い方を書いています。
しかし、全部をデジタルに頼ると万が一iPadを紛失したりすると大変です。
もしiPadが無くなったとしたら、と考えて必要最小限のものはアナログでも持って行きました。たとえば、地図もガイドブックの付録についていた紙の地図を持参しました。時刻表もインターネットが繋がらない場合を想定して、自分が乗る列車の時刻表だけは印刷しました。他には、航空チケットやホテルの予約時に印刷した紙を最小限ですが持っていきましたね。
アナログで思い出したのですが、最近国内旅行でもスマホやiPadを持って行く人が多くなりましたよね。でも、特に若い人で、旅先でメールやSNSをしてばかりで、せっかくの景色を見ていなかったり、一緒に出かけているメンバーと会話をしていなかったりという姿を時々見かけます。あれでは、いったい何の為の機器なんだと、とても残念に思います。デジタル機器は人を幸せにするべきものであると目的から外れていると思うのです。
先日も出張へ行き、ホテルのレストランで朝食を食べたのですが、30代くらいの夫婦が向かい合って朝食を食べていました。でも旦那様はテーブルの上にiPadを置いて、メールを読んでいるのです。奥さんは仕方なく、黙々と食べていました。そんな風景をこのごろよく見かけるようになって、「この使い方は違うな」と非常に残念に感じています。まずはアナログで生活を楽しむこと、デジタルは補助的なものなんですよ。どうもその辺がおかしくなってきていることを危惧しています」
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(後編につづく)
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