親の介護は遅かれ早かれ訪れることだ。そして、いずれは自分自身も介護される身になるかも知れない。
高齢化社会とよく言われるが、特に20代、30代の社会人には、介護とは何か、いざというときどうすればいいか分からないという人もいるだろう。しかし、分からないままにしておいてよい問題でもない。
『介護ヘルパーは見た』(幻冬舎/刊)では、これから介護する人、介護される人が直面する現実を、20年以上介護ヘルパーとして働く著者の藤原るか氏が、自身の経験をたくさんの事例を通して紹介する。
藤原氏が見た介護業界の現実とは、どういったものなのだろうか。いくつか紹介している中で、有料老人ホームについても触れている。
認知症のお年寄りは年々増えているが、東京都内だけを見ると、グループホームの数はまだ少なく、需要に対して供給が追いついていないというのが現状だ。一方、特別養護老人ホームに入居したくても満室で空きがなく、数年待ちという状況も生まれているという。そこで行き着く先が有料老人ホームだ。「有料」とついている通り、特別養護老人ホームに比べて費用が割高だが、高いお金を支払うから中身が整っているかと思えば、そうとは限らない。
渡辺氏が以前、働いたことのある有料老人ホームは、入居金が1億円という超豪華なところだったが、その内情はお寒いものだったという。
最初に担当したお年寄りは、暴れるからと拘束服(危害を及ぼす恐れのある人に着用させる服)を着させられていた。藤原氏はそれまで拘束服は想定外で、まったく使ったこともなかったとつづる。ところが、すぐに拘束服を脱がせ、車椅子に乗せて一緒に歩いて、そのお年寄りは穏やかな方で拘束服など必要なかった。要するに、対応次第ということなのだ。
認知症のことを理解していればきちんとした対応ができるはずなのだが、その有料老人ホームの職員は、拘束服を着せることに違和感を持っていないようだったという。
お年寄りを入居させる家族は、施設・設備の立派さや食事の豪華さに目を奪われ、肝心のケアの中身までチェックしないことが多いようだ。有料老人ホームを選ぶときは、館内の雰囲気や介護の様子を見て決めるべきで、とくに職員の定着率は、その施設の決め手になると渡辺氏は語る。中には入居金が安くても、きちんとケアしてくれるところもあり、高いお金を払えば、レベルの高いケアを受けられるとは限らないのが現実なのだ。
受験で学校を選ぶときと同様に、パンフレットや説明会、施設を見学しただけでは内情がわからないというのは、介護施設にも言えること。本書から介護の実態を知ることで、役に立つときが来るはずだ。
(新刊JP編集部)
ヘルパーが見た、介護業界の実態