数多いアメコミ・ヒーローの中でも屈指の人気を誇るバットマン。
まだまだアメコミになじみの薄い日本でも、その名を知らない方は多くないだろう。
しかし、バットマンの「本質」は、そこまで知られていない。
バットマンを語るうえで、「狂気」という言葉は外せない。
なぜ、特殊な能力を持たない普通の人間が、執拗に犯罪者たちを狩り続けるのか?
なぜ、コウモリを模した漆黒のスーツに身を隠しているのか?
なぜ、それほどまでに犯罪を憎みながらも、決して犯罪者たちの命を奪おうとはしないのか?
高評価を得た映画『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』、そして今夏公開される『ダークナイト ライジング』のシリーズでその一端に触れることはできるが、より本質に迫るためには原作コミックを手にする必要がある。
そのバットマンの狂気を存分に描いたのが本書『バットマン:アーカム・アサイラム 完全版』である。
舞台となるのは犯罪者専門の精神病院「アーカム・アサイラム」。ここで、かつてバットマン自身が捕えた犯罪者たちが暴動を起こしたときから物語が始まる。
「ここに来い、狂気の館に。お前のいるべき場所によ」
暴動を起こした犯罪者・ジョーカーの要求は、バットマンが一人でアーカム・アサイラムに来ることだった。
その誘いに乗ってアーカム・アサイラムに向かったバットマンを、トゥーフェイス、マッド・ハッターら、危険な囚人たちが待ち受けていた……。
彼らと対峙し、アーカム・アサイラムをさ迷うバットマンは、いつしかこの悪夢の館の成り立ちに隠された悲劇的な因縁に囚われていく。
次第に正気と狂気の狭間に陥っていくバットマンが辿り着いたのは……?
アメコミを代表する名ライターであるグラント・モリソンが創造したストーリーは、もはやアンダーグラウンドの極致。アーカム・アサイラムという館に隠された因縁は、バットマンの本質をえぐり出すほどの狂気に満ちている。
その衝撃的なストーリーはアーティストのデイブ・マッキーンの手によって、病的ともいえるほど幻想的な世界観に昇華された。
二人が創り出したこの作品は、もはやコミックという枠をはるかに超えて、芸術の域に達している。
本書に特典収録された、脚本とラフスケッチを合わせて読めば、そのすごさを実感していただけるだろう。
本書をご覧いただければ、バットマンというヒーローのイメージだけでなく、アメコミというジャンルに抱かれていたすべての価値観は崩れ去るはずだ。
書名:バットマン:アーカム・アサイラム 完全版
作:グラント・モリソン
画:デイブ・マッキーン
訳:高木 亮/秋友克也/押野素子(Full Script and Notes)
発売日:2010年9月30日
定価:2,730円(税込み)
発売元:小学館集英社プロダクション