怒りが収まらなかったこと、許せなかったこと、誰かを憎んだこと。
私たちはしばしばこうした激しい怒りに我を忘れることがある。そして、それらの怒りによって本来やるべきことに集中できなかったり、周りの人にやさしくできなかったりする。
許すことができればいいが、なかなかそうもいかない。そして許せないと、心が狭い自分が嫌になる。私たちは「怒り」とどう向き合えばいいのか。
『なんでもたべるかいじゅう』(幻冬舎刊)は、怒りに駆られて罪を犯したかいじゅうを描いた童話である。著者の北まくらさんは「怒り」と「許し」をどう表現したかったのか。作品の創作秘話とともにうかがった。
――『なんでもたべるかいじゅう』についてお話をうかがえればと思います。あとがきにもありましたが「許すこと」という明確なテーマのある物語です。このテーマで物語を作ろうと考えた理由について教えていただければと思います。
北:アイデアの段階では主人公であるブギーを物語の中でどこまで追い詰めるかということしか考えていませんでした。それぞれのキャラクターの設定が決まって、彼らを自由に動かし始めると、気づいたらブギーは激しい怒りに駆られて住んでいた惑星を丸ごと破壊していた。
このままでは物語の終わりが見えないので、そこで急遽ブギーが感じていた「怒り」を掘り下げることにしました。そうすると、怒りというものは自分自身を灰にしてしまうものだということ、そして「許し」が心の救いになることに気づいて、「いかに許すか」というテーマにたどり着きました。
――最初は「許し」というテーマではなかったんですね。
北:そうですね。最終的には自分自身の中にあった「怒り」を許そうとしてこの物語を紡いでいた気がします。
――それはどんな怒りだったんですか?
北:仕事での人間関係に苦労していて、許せないことがあったりしたので、そういった怒りです。そうした怒りが物語を進める原動力になったのは確かですが、今のお話にあったように、次第に「許し」というテーマに行きつきました。
――それによって北さんが抱えていた許せないことも許せたのでしょうか。
北:そう思っています。
――「許し」は古くから多くの文学作品のテーマになってきました。このテーマを扱った作品で好きなものがありましたら教えていただきたいです。
北:文学作品ではないかもしれませんが、栃木県に伝わる民話に「河童の雨乞い」という話があります。身の上の寂しさから村に住む人や動物たちに悪さばかりしていた河童の話なんですけど、自分に良くしてくれた和尚さんに報いたいという思いから、日照り続きで困る村人たちのために命がけの雨乞いをします。何日も雨乞いをしているうちに頭の皿の水は干上がって、皮膚もカラカラになっていく、死を賭しての雨乞いなのですが、ついに雨が降った時にはもう命が尽きていた。
河童が天に向かって一心に雨を祈って、悪さばかりしていた自分への許しを得ようとする姿に心を打たれまして、読んだ時は涙が止まりませんでした。
(後編につづく)
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