刺激的な人生を送るためには、大きなチャレンジが必要だ。
そして、そのチャレンジの先には新たな自分が待っている。そうした変化にわくわくできれば毎日は豊かなものになるはずだ。
コンサルティング会社を経営する松木 梯さんは、息子の留学についていく形でアメリカに渡航。そして、60歳にしてアメリカ・カリフォルニアのアーヴァイン・ヴァレー・カレッジへの留学を果たす。長年の夢だった「海外留学」を成功に導いたのは、まさに成功哲学の実践だった。
今回はそんな松木さんに、チャレンジの記録がつづられた『還暦の留学生[文庫改訂版]』(幻冬舎刊)についてインタビュー。挑戦を成功させるための秘訣をうかがった。
(新刊JP編集部)
■60歳でのカレッジ留学を成功に導いたのは「イメージ」
――『還暦の留学生』についておうかがいします。いわゆる「留学記」というジャンルになるかと思いますが、まずは本書を執筆した経緯から教えてください。
松木:私がアメリカへ行っていたのは2012年のはじめから2014年の暮れにかけての3年間で、2010年と2011年に息子の短期留学に同行したのを含めると、足掛け5年間になります。
そして、2014年の暮れに日本に帰ってきたときに、その5年間の生活を改めて振り返り、自分の人生の中でとてもエキサイティングな体験だったと感じました。また、息子の13歳から17歳という多感な時期をアメリカという異国の地で一緒に過ごせたということも、貴重な体験だったと思ったのです。
そこで、これはとにかく形にして残したいという衝動に駆られて、本としてまとめようと考えました。
――本書は2021年に単行本として出版され、この度文庫改訂版として再び世に出ていきます。単行本を出版されたときの反響はいかがでしたか?
松木:本を読んだ友人や知人からは「面白かった」という声をもらいました。半分お世辞もあるのかもしれませんが(笑)、1日で一気に読み切ったという人も多かったです。また、夢を持つことや最後まであきらめない姿勢の大切さを改めて感じられたという声もあり、ポジティブな感想がもらえたのはうれしかったです。
――もともと松木さんは旅行や仕事などで海外渡航の経験は豊富にありましたが、やはり留学は他の経験とは違いましたか?
松木:違いますね。海外旅行では45か国ほど行っていますが、旅行と実際に住むとでは天と地ほどの差があります。
実際に住むとなると、生活の基盤をその場所に構築しなければいけません。その準備がまず大変でしたし、文化や習慣の違いにも戸惑いました。日本人はよく勤勉で几帳面で控えめと言われていて、実際に濃淡はあっても民度は高いと思います。ただ、そうした感覚を当たり前に持っていると、海外の生活で驚かされることが多いんです。それが当たり前ではない、と。
――カルチャーショックのようなことが起こるわけですね。
松木:海外旅行でも感じることはありますけど、実際に住んでみるとそれがよく分かります。
――そうしたギャップをどのようにして乗り越えていったのでしょうか?
松木:やはり「郷に入っては郷に従え」で、自分の感覚や主義、主張を押し付けないこと。まずは相手を理解して、その中で自分の言いたいことを言うように意識しました。一方で日本にいるときよりも、自分の主張ははっきり言うようにしましたね。
――なるほど。柔軟な姿勢を取りながらも、主張すべきことははっきり言うと。
松木:そうですね。むしろそうでないとやっていけないと思いました。日本人はなかなか自分の意思をはっきり示すのが難しいと感じるかもしれませんが、アメリカでははっきり伝えるという姿勢を持つことが大切です。
――年齢を重ねると異文化であったり、自分が思っていたことと違うことを受け入れることのハードルが高くなっていくように思います。その中で松木さんが柔軟でいられたのはなぜですか?
松木:このアメリカへの渡航は、息子の留学が一番大切だったんです。その目的を果たすために自分がどういう姿勢でいればいいのかと考えたときに、年寄りの発想をしていてはいけないと考えました。気持ちだけでも若い人と同じように持って、一緒に乗り切っていこうという発想になったことが、その理由じゃないかと思います。
――語学についてお話をお聞きしたいのですが、もともと留学前の松木さんの英語力はどのくらいだったのでしょうか?
松木:中学3年生で英検3級を取りまして、その後は通信教育で英語を勉強していました。海外旅行では不自由はなかったですが、アメリカに渡って語学学校に入ったときに自分の英語力の悲惨さを実感しましたね。やはり日常会話の英語と旅行で使う英語は全然違います。
――最終的にはカレッジに入れるくらいの語学力を身につけるわけですが、どのような勉強をされたのですか?
松木:現地の語学学校に1年半近く通いました。そこではレベル1から6までのクラス分けがあるのですが、勉強あるのみです。一生懸命取り組んで、最終的には最高のレベル6で卒業することができました。
ただ、日本で高校卒業程度の英語力があれば、あとは応用になるので、レベル6で卒業するレベルには到達できると思います。私の場合、アメリカに住んでいるというアドバンテージもあったので、とにかく英語学習にすべてのエネルギーを注ぐことができたという点も大きかったです。
また、性格的に負けず嫌いなので(笑)、毎週のようにある、テストで良い点を取ろうと必死に勉強しました。
――なるほど。年齢を重ねる中で新たな語学を習得するコツなどがありましたら教えてください。
松木:一言で言えば興味を持つことが大事だと思います。興味があれば年齢関係なく頭は働きますし、覚える意欲も湧いてくるはずです。
語学はもともと頭を使って覚えるものではなく、周囲の人たちが使っている音を聞いて反復して覚えていくものだと思います。幼い頃なんかはそうやって言葉を覚えていきますよね。ところが、多くの人は最初から完璧な英語の文法で話さないと恥ずかしいと思っている節があって、それができないから話せないということに陥りがちです。そして、特に年を取るほどに、そのギャップは大きくなっていく。
でも、そういう考えは語学習得の邪魔になってしまいます。だから、まずは子どものように無邪気になって、興味を持って覚えるということが大切なのだと考えています。あとは、語学の習得の目的ですね。それを習得したら何が得られるのか。その部分をイメージできれば、年齢関係なく言葉を覚えられると思います。
――本書の冒頭でアメリカのカレッジ留学に挑戦した理由について、「単なる思い付きや道楽ではなく、一つの成功哲学を実践したかったから」と書かれていますが、この実践でどんな学びがありましたか?
松木:とにかくプラス思考が大事だということです。目的を達成したいという思いがあるならば、いかなるときでもあきらめずに最後まで努力すべきだということは、この留学を通して身にしみて理解できました。
結果が出るまで、決めたことを最後までやり抜く。成功する秘訣は、成功するまでやることだと昔から自分に言い聞かせてきました。そして、失敗をしても、その一歩先に足を踏み出すことが成功の第一歩であるといつも考えてきました。それが実践できたのがこのカレッジ留学だったと思います。
また、潜在意識の活用も大事です。本の中でも書きましたが、やはり最初は不安なんですよ。でも、「すべてはうまくいく!」と自分に言い聞かせて、アメリカの生活がうまくいっているイメージを自分の潜在意識の中に繰り返しインプットするという作業をずっとやり続けていたんです。
そうしたプラス思考やポジティブなイメージを繰り返しインプットし続けたことで、良い結果が得られたということから、ひとつの成功哲学を得られたと考えています。
――松木さんご自身が経営者という背景もあり、目標に対するコミットメントが強いですね。
松木:それはあるかもしれませんね。何か問題が起きたときも、「やればできるよ」ということを口癖にしていましたし、それが今回に活きましたね。
(後編に続く)