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「執行の前に社会から抹殺されてしまう」死刑囚たちの日常

  • 書名 『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』
  • 監修・編集・著者名佐藤大介
  • 出版社名幻冬舎

昨年12月21日。二年ぶりとなる死刑が、死刑囚3人に執行されたことは記憶に新しい。日本に死刑制度があることは誰もが知っていて、そこに違和感を持つ人は少ないが、死刑判決が出てから執行されるまで、死刑囚がどのように過ごし、死刑執行の判断がどのように下され、どのように行われるのかは、あまり知られていない。

まして、主要先進国の中で死刑執行を続けている国はもはや日本とアメリカしか残っていない。そのアメリカも州によっては死刑制度が廃止されている。明確に死刑廃止に向かっている世界の流れの中で、日本の死刑とはどのようなものなのか、実態を知って考えてみる時期に来ている。

■「執行の前にその存在が社会から抹殺されてしまうことになる」

いつ、誰を死刑に処するかの権限は事実上、法務官僚に握られており、その手続きに外部からの検証を加えることはできない。さらに、確定死刑囚は外部との接触が厳しく制限されており、その姿をうかがい知ることも難しい。(『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』より)

『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』(佐藤大介著、幻冬舎刊)は、死刑制度の運用から死刑囚の生活、彼らと接する刑務官の心情まで、なかなかその実態が伝わってこない日本の死刑に肉薄する。

日本の確定死刑囚の生活を特徴づけるのは、その孤独さだ。
死刑が確定すると、施設長による特別の許可がない限り、面会は親族や、婚姻や訴訟、事業で面会が必要な人、心情の安定に与する人に限られる。また、親族や弁護人以外で面会ができるのは、最大で5人までとされているという。

拘置所内でも、確定死刑囚同士が交流を持つ機会は基本的にない。過去には卓球やバドミントンに興じたり、誕生日会を行うなどしていた時期もあったが、現在は行われていないという。刑務作業もないため、ただひたすら収容されている独房で過ごすことになる。となると、誰かと会話を交わす機会は激減し、失語症のような状態になる確定死刑囚もいる。

アメリカの確定死刑囚と比べると、日本の死刑囚がどれだけ外部から隔絶されているかがわかる。アメリカでは死刑囚への面会の制限は緩やかで、確定死刑囚が拘置所内でメディア取材を受けることも。死刑執行までを追ったドキュメンタリー番組が制作されることもあるという。

「死刑囚は執行で生命を奪われることによって刑をまっとうする。しかし、死刑の確定によって外部との接触がほぼ断たれ、執行の前にその存在が社会から抹殺されてしまうことになる」(P41より)

法曹関係者によるこのような指摘があるように、日本の確定死刑囚は孤独の中で死刑執行までの日々を過ごすことになるのだ。

本書では、拘置所関係者やそこで働いていた人など、様々な証言から秘密のベールにつつまれた日本の死刑制度に丹念に光を当てていく。

出色なのは、確定死刑囚らに対して死刑制度や死刑執行の手段である絞首刑についてのアンケートを実施している点だ。彼らが自分たちの運命について考えていることも、死刑制度とその問題点を理解する一助となるだろう。

(新刊JP編集部)

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