人の目が気になり、つい期待に沿うように自分を演じてしまう。 人の意見に同調し、流されて生きてしまう。 明るくふるまい、うまくやっているようでも、心の中では不安がうずまいている。
『超訳 人間失格』は、このような息苦しさや同調圧力を感じる人に向けて書かれた一冊です。
『人間失格』の主人公・大庭葉蔵も、同じ苦しみを抱え続けた人間でした。
葉蔵は、小説の中でこのように独白しています。
「自分は隣人と、ほとんど会話が出来ません。何を、どう言ったらいいのか、 わからないのです」
この人間関係をめぐる悩みや苦しみは、時代を超えて人々が持つ普遍的なものです。
だからこそ、いま、『人間失格』をよみとき、現代の私たちに引きつけることで、生きづらさへのヒントになります。
本書『超訳 人間失格』(アスコム刊)では、明治大学教授の齋藤孝先生が、小説『人間失格』の物語を紹介しながら、登場人物の心情や太宰治のメッセージを丁寧に解説していきます。
もしあなたが、過去に『人間失格』を読み、「弱すぎる人間の話」と思ったり、暗くてたえられないと感じたりしていたら、そんなあなたにこそ、本書は響くはずです。
『人間失格』を読み解くキーワードのひとつが「仮面」。
葉蔵は、裕福な家の生まれで、美男子。とにかく女性にモテまくる。にもかかわらず、人に対して過敏に反応してしまいます。
そして、おどけてみせる仮面をかぶることを選びました。
「そこで考え出したのは、道化でした。(中略)自分は、人間を極度に恐れていながら、それでいて、人間を、どうしても思い切れなかったらしいのです。」
お調子者の仮面、おだやかな人の仮面、目立たないように生きるための仮面...。
現代では、誰もが何かしらの仮面をつけて生きていかざるを得ません。そこに罪悪感を持つ必要はなく、大切なのは「自分はどんな仮面をかぶっているのだろうか?」と意識することだと本書では説いています。
「恥」とならぶキーワードのひとつが、世間。
SNSが浸透した現代は、批判を浴びるリスクを誰もが抱え、コメントひとつにも反応を想像する必要があります。これを齋藤孝先生は、「ニュー世間」と名付けました。
『人間失格』で世間を象徴するような男が、父の別荘に出入りしていた書画骨董商の渋田、あだなはヒラメ。
心中事件を起こした葉蔵に、「どうするんですか、これから」と問いつめてくるうっとうしいやつですが、人のやることをヒラメのように監視し、干渉してくる人はたくさんいます。
SNSでは、「あなたのためですよ」というコメントにあふれていますし、芸能人に対して「あなたのためには、こうしたほうがいい」なんていう言う人も少なくありません。
葉蔵はこれらの「世間」を代表する人たちに対して、敗北の態度を取るようになっていく。相手の意に沿うようにふるまい、同調圧力に屈してしまう。そして流されていった先が「人間失格」でした。
世間に立ち向かうには、自分の軸となるアイデンティティを持つことだと本書は書きます。
そのひとつの方法が、「所属し、役割を果たすこと」。たとえば、「アイドルの○○を応援する自分」でもいい。そのファングループに所属し、一体感を得ることで心の安定が得られます。「アイデンティティとは、後から獲得できるもの」なのです。
『人間失格』のラストは、意外にも悲劇ではありません。
重度のモルヒネ中毒となった葉蔵は、東北の療養施設でこう考えます。
いまは自分には、幸福も不幸もありません。
ただ、一さいは過ぎて行きます。
自分がいままで阿鼻叫喚で生きて来た所謂「人間」の世界に於いて、たった一つ、真理らしく思われたのは、それだけでした。
ただ、一さいは過ぎて行きます。
仏教で言う悟りの境地。
齋藤孝先生は、本書の中でこう書いています。
「ブッダは教えの中で、幸福になりましょうとは言っていません。幸福も不幸もないと言っています。葉蔵は、最後のシーンでブッダに近づいたのです」
そして、20代、30代、40代、50代......とそれぞれの年代で「悟り」があり、心の中に「静かな湖」のようなものを持っていることが、この世界を生きていくうえで大切なことだと説きます。
『人間失格』のラストでは、これ以上堕ちようのない地獄の底から上を見上げたら、小さく青空が見えた、というような、かすかな希望が余韻として残りました。
「ただ、一さいは過ぎて行く」
つらいときは、この言葉を思い出してください。必ずそれは通りすぎていきます。ずっと変わらないということはありません。だから絶望する必要はないのです。
本書『超訳 人間失格』を読めば、あなたの生きづらさの原因を理解でき、その対処法が見つかるはずです。
コロナ禍で誰もが生き方を変えざるを得ないいま、この本で自分の内面を見つめ直し、そのきかっけにしていきましょう。
(新刊JP編集部)
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