新型コロナ禍において、私たちのコミュニケーションの形は激変した。直接人と話す機会が少なくなった一方で、ツールを使ったリモートでのコミュニケーションが増え、当初は戸惑いを覚えた人も少なくないだろう。
コミュニケーションが苦手な人にとって、相手とどう話せばいいのかという問題は直接であれリモートであれ常に付きまとう。リモートの場合なら、1対1でのケースが多くなるので、「自分が話さなければいけない」とつい思いがちだ。
しかし、そういうときこそ意識すべきなのが「聞き方」である。
『成功している人は、なぜ聞き方がうまいのか?』(日本文芸社刊)は、社会心理学者の八木龍平氏が開発した「聞き方メソッド」を伝授し、聞く力を高めてくれる一冊。
「聞く力」に共感力はいらない。本書のスキルを使えれば、相手の本当の本音が引き出すことができるという。では、その方法とは? 見ていこう。
まず、「聞き上手」とは一体どういう人だろう。
共感力が高く、相手の気持ちを理解してくれる人――そう思ってはいないだろうか。実はこれは間違いだ。共感力ゼロでも聞き上手にはなれる。
一体どういうことか。
話を聞くときに大事なことは相手への共感ではなく、「理解」だ。相手に同情できなくても、相手が何を思い、どう考えているのかを理解する能力「エンパシー」が求められる。
「聞く力」とはいわば、相手に話をさせる力だ。だが、相手の気持ちがわかっても、「その気持ち、わかるよ」だけでは、そこで話が結論づけられてしまい、話は途切れてしまう。
話が広がらずに終わってしまうのは、相手の気持ちのさらに奥にある本音が出てこなかったから。
一方、聞き上手と言われる人と対峙すると、なぜか自分でも気づいていなかった本音をどんどん言ってしまう。その極地に行くためには、簡単に相手の気持ちを「わかってはいけない」のだ。
では、「わかってはいけない」とはどういうことなのか。それは「わからない」という不安な状態に耐えながら、話を聞くことである。
この力は「ネガティブ・ケイパビリティ」と呼ばれる。
ネガティブ・ケイパビリティの態度でいれば、安易に答えは出てこない。相手に主導権を握らせて、どんどん話をしてもらえばいいのだ。
主導権を握らせる方法はいくつかある。たとえば、漠然とした質問で相手に話を委ねるのがその一つ。「何から話そうか」「どう思う?」といった具合だ。相手の話したいことを話させて、自分はその会話を止めない。これを続けていくことで、相手は自分に対して信頼を寄せ、深い話を明かしてくれるのだ。
話をしていて、相手が考え込んでいたり、ちょっと混乱している場合は一度、自分が10秒ほど沈黙してみてもいいだろう。相手が自分の考えをまとめて結論を出すまで、こちらが黙って待つのだ。
多くの場合「こういうことでしょ?」などと助け船を出してしまいがちだが、それは結論の誘導をしてしまうことになる。しかし、ここであえて沈黙することで、相手が自分でたどり着いた結論を引き出し、それを受け止めるのだ。
心の奥底にある本音は結論の誘導では導き出せない。相手と沈黙を共有し、本当に話したいことを話させてこそ、信頼が深まり、「何でも言える人」となっていく。
私たちはどうしても相手が抱えている問題を解決しようとしてしまうが、自力で解決にたどりつけさせることが、「聞き上手」たるもの。沈黙を上手く使ってコミュニケーションをしよう。
◇
「聞き方」のメソッドだけを覚えても、なかなか上手くいかないのがコミュニケーションというものだ。もちろん本書にも、さまざまなメソッドが掲載されているが、そのメソッドは著者の研究領域である社会心理学やスピリチュアルに根差しており、なぜそのメソッドが効果を発するのかということが、よく分かる仕組みになっている。
聞き上手とは、人から信頼されている人のことを言う。相手の本音を受け止めてくれて、この人だったら話せてしまうと思わせてしまうのだ。リモートワークとなり、今まで周囲にいた同僚や上司、部下とのコミュニケーションが変わってしまっても、このメソッドは使えるはずなので、ぜひ、参考にしてみてほしい。
(新刊JP編集部)
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