企業は利潤を追い求めるだけでなく、その活動が社会に与える影響にも責任を持つべきであるとするC S R(Corporate Social Responsibility)の考え方は、日本でも少しずつ浸透し、事業を通した社会貢献を掲げる企業も増えた。
そんななかで、衛生環境が悪く、感染症が蔓延しやすいアフリカの地に、事業を通して「手洗い」と「アルコール消毒」を根づかせようと10年以上取り組んでいる企業がある。
『情熱のアフリカ大陸 サラヤ「消毒剤普及プロジェクト」の全記録』(幻冬舎刊)は、衛生用品メーカーであったサラヤ株式会社がアフリカ・ウガンダで手洗いを啓発し、アルコール消毒剤の現地生産を実現するまでの軌跡を書いた一冊だ。
サラヤはなぜ、このような困難な取り組みを始めたのか。日本から遠く離れたウガンダの地にはどんな困難が待ち受けていたのか。今回は著者の田島隆雄氏と、このプロジェクトに立ち上げから関わってきたサラヤの代島裕世(だいしまひろつぐ)氏にお話をうかがった。その後編をお届けする。
――代島さんが最初にウガンダを視察した2010年の時点では、まだ現地は病院でもアルコール消毒剤が十分に行き渡っていない状況だったそうですね。
代島:手洗い以前に清潔な水にアクセスできないという問題があります。病院でもそうでした。こういう時は汚れた水で手を洗うよりも、アルコール消毒剤の使用頻度を上げた方が有効かも知れないと考えました。
2012年、現地調査にはJ I C A(国際協力機構)の助成金を受けることが出来ました。日本からアルコール消毒剤をウガンダに運び、病院に設置して院内感染予防の効果が出るのか調査しました。そこでは医療従事者への教育こそ重要でした。熱意のある院長が統率していた水がほとんど出ない、田舎の公立病院で劇的効果が記録されました。その結果はWHO(世界保健機構)からも表彰され認められました。イギリスの植民地時代の医療制度を引き継ぐウガンダは、公立病院の診療が無料なので、貧しい人たちは公立病院に行くしかないのですが、劣悪な衛生環境の中で当たり前に院内感染が起きるんです。だから国の責任で何か対策をしないといけないのですが、そこまで手が回っていないのが現状でした。
ウガンダの保健省は早々とWHOが医療現場でアルコール消毒を推奨する世界キャンペーンに参加する意思表明はしていたのですけどね。
――具体的な行動をとるところまではいけていない。
代島:まあ、国家予算までもが海外からの援助だったり、借入金だったりするので、公共サービスも海外の支援頼みというところがあるんですよね。病院のアルコール消毒剤も、海外のNGOなどが寄贈してくれた時はあるけど、使い切ったらまたなくなるという感じです。
――となると、抜本的な対策はアルコール消毒剤を現地で作ることですね。
代島:そうです。医療現場で使うアルコール消毒剤はアルコール濃度が70~80%ありますから可燃物です。だから原則空輸はできない。それもあって「地産地消」がベストなんです。
だいたい世界のどこでもお酒はありますからね。理屈でいえばお酒があるところならアルコール消毒剤も作れます。
――サラヤはウガンダで原料としてサトウキビに目をつけられましたね。
代島:ウガンダはアフリカの中でも相当なお酒の消費国で、国民酒のように飲まれているお酒「UGANDA WARAGI」が綺麗な蒸留酒だったんです。だから現地で製造会社を探し、サトウキビ由来のアルコールも調達できました。
――ただ、ソーシャルビジネスが持続できるかどうかの鍵になるのは、やはり採算のところです。現地生産したアルコール消毒剤を採算ラインにのせるのに、苦労されたのではないですか?
代島:やはり、なかなか目論見通りにはいきませんでした。保健省とも合意を取り、現地生産したアルコール消毒剤を公立病院に配置してもらう約束をとりつけていたのですが、なかなか実行が果たされませんでした。遅々として手続きが進まないのは途上国、アフリカビジネスの「当たり前」だと思います。賄賂も横行しています。 時には政治の力も必要になる場面もあり、様々な関係者を巻き込んで、協力を得ることが不可欠でした。プロジェクトに参加した一人ひとりが、それぞれの役割を全うし、バトンを繋いできました。
――現在も続いているサラヤのプロジェクトですが「ゴール」はどこになるんですか?
代島:最後はやはりソーシャルビジネスをローカライズ(現地化)することでしょうね。日本人スタッフが誰も常駐していなくても、現地の人たちだけでウガンダ拠点が回る、というのがゴールだと思っています。そしてアフリカの世紀に持続発展していく会社を、日本の本社と一緒につくっていく。
――最後に、読者の方々に一言ずつメッセージをいただけたらと思います。
田島:今回の本を読んでくれたという方は、たとえば国際協力に興味があったり、アフリカに興味があったり、多分この本の何かの要素に引っかかるものがあったということだと思います。
この本を読んで終わりではなく、そういった方々がアフリカ支援のチャリティに参加したり、国際協力やソーシャルビジネスについてもっと深く調べてみたり、あるいは単に友人や知人との間で話題にするだけでもいいので、次の行動につなげてくれればうれしいです。
代島:この10年間、サラヤがやってきたことの軌跡がまとめられているので、社員も読んでいるし、新たに入社希望の人たちも読んで来てくれます。SDGs(Sustainable Developing Goals)ビジネスという言葉も出て来ている中、途上国で持続可能なビジネスをやってみたい人、この世界に問題意識を持っていて、何かを変えたいと思っている人の参考になればうれしいですね。
(新刊J P編集部)
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