日本には「御三家」と呼ばれているホテルがある。帝国ホテル、ホテルオークラ、ホテルニューオータニの3ホテルだ。
もしかしたら「名前は知っているけど、宿泊したことはない」という人は多いかもしれない。日本のホテルの草分けであり、今も業界を牽引し続けているホテル御三家とは、どんなホテルなのか。
『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(山川清弘著、幻冬舎刊)では、「歴史に裏打ちされたおもてなし」「老舗の安心感」では片づけられない御三家の歴史と意外な因縁に迫る。
開業年からみると、長男になるのが帝国ホテル。海外からの賓客を迎える民間の迎賓館として、1890年に開業した。
接客係から配車係、靴磨きに至るまで、歴代名物従業員が存在し、その行き届いたサービスから、後進のホテルたちは「帝国ホテルのようなおもてなしを」とお手本となるようなホテルである。
次男のホテルオークラは、1962年5月に開業。効率重視のホテルならば、1階玄関からすぐにフロントがあり、余剰スペースはレストランや宴会場など収益を生む設備に確保するもの。けれど、オークラの場合は、「ロビーは静かにくつろげる場所」であることを最重要視し、広大な空間を無料のラウンジとして開放している。2019年に再オープンし、The Okura Tokyoとなっても、その伝統は受け継がれている。
オークラ開業から2年後の1964年にオープンしたのがホテルニューオータニ。この年の10月に開幕が予定されていた東京オリンピックに向けて増加する外国人観光客を見越して建設された。「日本初の超高層建築」「東洋一の回転展望レストラン」など、「日本一」「最大」にこだわり、トップレベルの設備とサービスを追求してきた。屋外プールをゴールデンウィークと夏場の昼夜開放し、現在でもインスタ映えを狙うSNS女子の人気を集めるなど、常に新しい企画を実行している。
新しいものを取り入れるのは、帝国ホテルも同様だ。一定金額を払えば料理はどれでも取り放題というバイキングを日本で初めて取り入れたのは帝国ホテルだ。支配人を務める犬丸徹三の長男である一郎が米国留学した際にニューヨークで知った北欧の伝統料理「スモーガスボード」を参考にしている。1958年の第2新館開業と同時にスタートした「インペリアルバイキング」の料金はランチ1200円、ディナー1500円で、連日長蛇の列ができる人気となったという。
世界最大の旅行プラネットフォームであるトリップアドバイザーでの評価では、外資系ラグジュアリーなどの他のホテルよりも御三家の評価が高い。なかなか旅行に足が伸びない今だが、3ホテルの歴史や人気の秘密を本書から知った上で、機会があれば宿泊してみるのもいいかもしれない。
国内で大きなイベントがあるたびに、多くの要人や観光客を受け入れてきたホテルの歴史は、そのまま日本の歴史でもある。ホテルを通じて、日本のきた道のりを振り返ってみるのもおもしろい。
(T・N/新刊JP編集部)
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