芸術、スポーツ、ビジネスなど、あらゆる場で「天才」という言葉を目にする。
では、一体天才とは何だろう? 辞書をひくと「生まれつきの,すぐれた才能(‐をもつ人)」(三省堂ウェブディクショナリーより)とある。
それならば、生まれつきの才能がない人は天才にはなれないのか......?
教育哲学者の古寺雅夫氏は、天才を「すべての仕事で創造的で、品質が安定して高く、量がある」と定義している。
この定義に沿えば、創造的で高品質で、大量の仕事ができれば、それは「天才的な仕事」をしたと言えるのではないか?
そんな、少し違った視点から天才を定義し、そこに近づくための方法を伝えているのが『直線は最短か?』(阪原淳著、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス刊)だ。
本書では、ヘーゲルの弁証法という哲学を活用した発想法や創造の方法を紹介している。
それによると、創造性と品質、量のすべてを満たすには、自分だけの方法を作り出すといいという。
たとえば、20世紀の画家、藤田嗣治(レオナール・フジタ)は西洋画のなかに東洋エッセンスを入れ込み、また独自の色(乳白色)を発明したことで、唯一無二の絵を生み出した。
彼のように自分なりの方法を作れば、その分野において比べられる存在がいなくなるため、独壇場になると本書は説く。
これは仕事においても同じだ。自分だけのやり方や考え方を生み出すことができれば、その分野においては、他の追随を許さない結果が出せるということになる。
では、どうしたら自分だけのやり方や考え方を生み出すことができるのか?
そこで役立つのが「弁証法」だ。
弁証法とは、「A」と「B」という異質な「もの」や「概念」、「アイデア」などから、「C」という跳躍した結果を導き出す思考法だ。
今の自分のやり方を「A」として、他の人がやっている方法を「B」と定義し、それをかけ合わせて「C」という新しい方法を考え出せばいいわけだ。
本書には具体的な発想法や方法も紹介されているが、大事なことは、何事もすぐにうまくいくようなものはないということ。何度も試行錯誤を繰り返しながら、考え抜くことを忘れてはいけないのだ。
本書では、もう一つ、天才に近づく方法が紹介されている。それは「天才は天才に学ぶ」ということ。
アレクサンダー大王、ハンニバル、ナポレオン、そして孫正義氏まで、古来より大きな結果を残した人物は、熱心に過去の人物の研究をしたという。
映画監督でもある著者は、アメリカの映画監督ベネット・ミラーから学ぶことが多かったという。また、是枝裕和氏や河瀬直美氏の仕事を見るなかで、ドキュメンタリー映画を撮ることを決めたそうだ。
もちろん、過去の天才の考え方や手法をそのまま真似しても、うまくはいかない。現在の自分の考えや手法と過去の天才の手法を掛け合わせて、自分だけのやり方を生み出すことが大切だ。
昨今、世の中では歴史熱が再燃しているが、今に生かせる手法を見つけるために歴史を学ぶというのも、天才に近づくためのひとつの方法なのかもしれない。
(新刊JP編集部)
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