ビジネスシーンにおいて「生産性」は最も重要なキーワードの一つになっている。
日本の企業は生産性が低いと指摘されるが、中小企業は大企業に比べてより生産性が劣る。その数字は、2019年版の中小企業白書によれば、大企業と比べると「0.41倍」になるという。
そんな生産性の向上と業績アップのカギを握っているのが「経営計画」と「人事評価制度」だと指摘するのが、『改訂新版 小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』(あさ出版刊)を上梓した、"組織成長、進化の仕組み"づくりコンサルタントの山元浩二さんだ。
今回は、本書で提唱している「ビジョン実現型人事評価制度」を中心に、人事評価制度を中小企業に導入することの重要性についてお話をうかがった。
(新刊JP編集部)
――今回上梓された『改訂新版 小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』についてお話をうかがいます。初めての著書である『小さな会社は人事評価制度で人を育てなさい!』から10年目ということになりますが、どのような部分を新しくされたのでしょうか。
山元:2010年の最初の出版をきっかけに、この10年で私たちのクライアント数は3倍強に増えました。
私たちのコンサルティングは、人事評価の仕組みのノウハウや制度設計のみをお手伝いするのではなく、現場に入らせていただいてリーダーの方や評価される方とも膝を突き合わせて、実践的に運用を支援するというスタイルを取らせていただいています。
その中で、やはり10年の間に新しく得た知見であったり、10年前にはなかった課題が見えてきたりしたんですね。そこで本書の核であり、全社員が一丸となって「豊かさ」というゴールに向かっていく理想的な組織を実現するための「ビジョン実現シート」(*1)をはじめ、経営計画のレイアウト、運用ツールをリニューアルして、最も中小企業で成果の出る経営計画と評価制度を提示したのがこの本なんです。
――評価制度というと、やはり賃金制度とセットという認識は強いと思います。ただ、本書では最初から賃金制度に紐づけて運用するのではなく、まずは評価制度の定着が必要だと書かれていました。
山元:この点は誤解を生みやすい部分ですね。もちろん、評価制度と賃金制度はセットと考えるべきです。ただ、すぐに紐づけるのではなく、賃金・賞与に反映させるには制度をスタートさせてから2、3年後くらいからという考え方をしています。
この本で提唱している人事評価制度は、人材育成のための仕組みです。人材が成長し、会社の経営理念を実現し、豊かになることが第一です。その部分が定着しないまま、最初から賃金制度と評価結果を合わせて運用をすると、だんだんと社員の不満がたまっていくんですね。
――昇給のために人事評価制度があると考えているから、評価されないと、給料が上がらないということで不満がたまる、ということでしょうか?
山元:いえ、もっと手前の問題ですね。中小企業の多くは、しっかりした評価制度を作っていないので、この制度をクライアントさんに提案して取り入れても、みな初めてのことばかりで戸惑うんですよ。適正な評価の仕方も分からない。
だから、評価の仕方がリーダーによってバラバラだったり、社歴が長いという理由で仕事ができないまま課長や部長が評価をすることに不満が出てくるわけですね。そういったことを解消し、全社員が納得できる評価を行い、部下の成長を支援できるリーダーとなるまで、2~3年は必要だということなんです。
――なるほど。昇給のために評価制度があるという認識をしている人もいると思いますが、山元さんの提唱する人事評価は「人材育成」ということが大目的であると。
山元:その部分の目的の履き違えはあると思いますね。「ビジョン実現型人事評価制度」の最終的な目的は、経営計画の達成であり、社員全員が豊かになることです。経営者はここがブレてはいけません。
――「ビジョン実現シート」を見ると、はじめに来るのが「経営理念」です。この経営理念を作成する際に注意すべきことはなんですか?
山元:経営理念は、その会社が何のために事業を行っているのかを明確に示すものです。いわば会社の存在意義ですね。だから、本来どの会社にもあるはずなんですが、それが明文化されていない会社もあります。この本では5つの手順で経営理念のつくり方をご説明していますが、これは経営者自身が考えなくてはいけません。
――そこで明文化された経営理念によっては社員が離れていくリスクも?
山元:この段階で共感していなくなるケースはほとんどないと思います。明文化されていないけれど、誰のために、どういう目的で、というのはあるはずで、社員はそこに向けて業務に取り組んでいるわけですから。
――「経営理念」の次に来るのが「基本方針」ですね。
山元:「基本方針」は会社の方向性・考え方をより具体的に落としたものです。さらにその奥に社員に求める指針である「行動理念」、人材を育成する際の指針である「人事理念」が出てきます。
シートを見ていただくと、「経営理念」から始まり10個の要素がありますが、どんどん一人ひとりがどう行動すべきかが具体化されていくんですね。つまり、経営理念から最後の「10年後の社員人材像」「ギャップを埋めるために必要な課題」まで、すべてつながっているんです。
――この制度の運用について、「2、3年はかかる」とおっしゃられている通り、浸透・定着が大変そうだなと思います。
山元:これは考え方を徹底して伝えていくことですね。だからこそ、リーダー層の育成が大事になるのですが、リーダーたちと一緒に評価基準をつくり上げていくんです。個人的には、一職種に2ヶ月ほどかけながらじっくり基準をつくり上げていくくらいやっていくと、目的が浸透すると思います。
――どうしても浸透しない、賃金制度と一緒に考えてしまうということが拭えない場合はどうすればいいでしょうか?
山元:この評価制度が人材育成のための仕組みであるということが理解されないなら、プロジェクト名として「評価制度」という言葉を使わないのも手ですね。「キャリアアップ基準」や「人材成長プロジェクト」というような名前をつけるとか。
――実際運用をはじめると、リーダー層は面談や準備・後対応の時間に追われることになります。この制度でも「育成面談」や毎月行う「チャレンジ面談」といった面談がありますが、リーダーから「もうこんなに仕事が持てない」という反発もありそうです。
山元:その時の対応策は2つですね。1つは考え方の部分で、先ほどの繰り返しになりますが、この評価制度は人材育成のための仕組みであり、これが上手く運用されれば会社が成長する極めて重要度の高いプロジェクトだということを伝えることです。
もう1つは実践の部分ですね。リーダーがこの制度を上手く運用できれば人材は成長する。そうしたら自分の仕事をどんどん渡せるようになるんです。さらにリーダーは新しい仕事にチャレンジすることもできますし、業績もどんどん良くなっていく。それを実感してもらえれば、反発は収まると思います。
(後編に続く)
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